中小企業にIT導入が進まないのは、それなりの実情があるからで、決して経営者が無関心だからではない。つぶさに現場を歩いてみると、それぞれの環境でしぶとく生き残る姿が見えてくる。
仕事で、ある中小企業の経営者と話をしていた。業務の流れを見て「この部分をITで自動化すれば生産性は大幅に上がりますね」とつぶやいたら、こんな言葉が出てきた。「齋藤さんね。トコロテン作るみたいに入口から押しこんだらピューっと出てくるような製品は、もうみんな中国に行っちゃっていますよ」
そうなのである。自動化でほとんど対応できる製品は、日本の中小企業にとってほとんど仕事にならない代物なのだ。
別の経営者との会話。
筆者 この装置は何ですか
「ワイヤハーネスを作る機械ですよ」
筆者 使ってないみたいですね
「その装置は1回動かすと1日で1万個くらいできるのですよ」
筆者 そりゃスゴイ、どうして使わないの?
「注文は一度に50個とか100個しか来ないですからね。その装置は調整するのに1時間以上かかるのですよ。1時間かけて調整して、ほんの数分で出来ちゃいますから。割が合わない。パート使った方が安上がりです」
安い労働力を求めて大手企業は生産を中国をはじめとする海外へ移管した。大手への部品供給や工程の一部を担う中小企業も共連れする形で中国に渡り工場を建てた。世界に向けて大量に生産される製品は海外生産が当たり前となり、国内には非量産品が残った。
また別の経営者との会話。
「齋藤さん、セル生産ってどうして大企業で最近流行っているか分かりますか?」
筆者 セル生産って流れ作業ではなくて1人が全工程を受け持って完成させるやり方ですよね。能率がいいらしいですね。どうして昔からやらなかったでしょうね
「セル生産が昔出来なくて、最近できるようなったのは中小企業のおかげなのですよ。大企業は中小企業が作った部品や半製品を組み立てるだけ。ネジ止めすればいいのです。パコパコはめていくだけ。だからセル生産が成立するのです」
大企業の指導もあったのだろうが、中小企業の技術レベルが上がり、モノ作りのややこしい部分を下請けに任せでも大丈夫になった。大企業は製品企画、営業、アセンブリが主な仕事で、モノの生産は下請け任せというところも多いのである。今や中小企業なしにはモノ作りが成り立たないという大企業も多い。その中小企業は委託していた工程や部品を取り込み、付加価値を高めることで生き残りをはかっている。
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