コスト削減の努力を正しく評価する方法――地方行政でのアイデア闘うマネジャー(1/2 ページ)

行政のシステムは高価格だと言われるが、その主原因は入札仕様書の曖昧さにある。長崎県では職員が中心となってシステムの設計書を書き、曖昧さをなくし、コスト削減の努力を続けている。この努力が、システム稼働後の改修作業などでマイナス評価につながらないよう、さまざまなアイデアの実行で対処している。

» 2008年09月05日 15時26分 公開
[島村秀世,ITmedia]

マイナス評価をしないとシステム改修ができない?

 前回は、実力がないにもかかわらず入札に参加し、できないのをごまかすために難癖をつけるベンダーへの対処策について書いた。今回は、「間違いのない設計書なんて書けるわけがない」ということについて書いてみたい。

 省庁を含め行政分野では、「無謬(むびゅう)の原則」から勘違いや誤りを表に出さないようにする傾向がある。このため、誤りの責任はベンダー側にあるとしていることが多いし、改修に対する対価も支払っていなかったりする。さらに、発注者責任が問われないように、故意に、入札仕様書を曖昧に書いたりもする。曖昧にしておけば、「これはそんな解釈ではない。このようなつもりで書いている」などと受注者側に対して好き勝手に言えるからだ。

 行政のシステムは高価格だと言われるが、その主原因はこの曖昧さにある。筆者は、曖昧さを可能な限り減らしていこうと、「闘うマネジャー」のバックナンバーにもあるように、業務に精通している職員が中心になって設計書を作成するようにした。業務を知る者が参加することから、ベンダー任せの設計書に比べ精度は高く、詳細でもあることから、他県と比べ1/3〜1/2の価格でシステム開発が可能となるが、設計書に勘違いや誤りが存在しないわけではない。細かく統計をとっているわけではないが、3%〜7%程度はあるようだ。

 行政では誤りがあった場合、責任の所在を明らかにし、改めて予算要求し、対策を実施する。しかしこの考え方だと、設計書に存在する勘違いや誤りの責任は職員にあることになる。改修を行うためには、マイナス評価をした上でないと予算要求できないことになるのだ。職員が努力してくれたから、コスト削減が進み、安価にシステム開発できたのに、マイナス評価をしないと改修が行えないなんておかしくはないだろうか。民間であれば、「経費低減額 − 勘違いや誤りに伴う改修費用 = 貢献額」のような計算をするので、職員の評価は確実にプラスなのに、行政ではマイナス評価なのだ。

 省庁の職員を含め行政職員はこの辺のことを無意識に理解しているようだ。今までと違うやり方で努力すると、既存の制度とぶつかり、マイナス評価となりやすい。筆者は民間から行政に入り、業務改革のため職員に今までと違うやり方を強いる立場にいる。このまま放置していたら、職員に苦労させたあげく、マイナス評価を与えてしまうことになる。設計書を発注側で用意するという手法に問題があるとは思えない。事実、開発経費、運用経費とも大きく削減されている。

 筆者は、行政の制度に問題があるように感じた。無謬の原則と単年度主義だ。無謬とは、「みじんの誤りもない」ということであり、単年度主義とは、1会計年度の予算はその年度内に執行し完結することである。このため行政では、執行した事業に問題がないか年度後半にチェックし、問題があれば課題や責任の所在を明らかにした上で、改めて予算要求し、翌年度に対策を行うという手順を踏む。

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