ERP導入で対極的な2つの事例なぜ失敗するのか(2/3 ページ)

» 2008年09月09日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

順調だったE社のERP導入

 一方のE社もERP導入を決断した。E社が選定したのもD社と同様のERPパッケージZである。E社へオフコンベースのシステムを納品したシステムプロバイダーのH社もZを取り扱ったことはなかった。しかし、E社はERP構築作業をH社に依頼し、H社と協調してZの開発元ベンダーに導入時における技術サポートを要請することにした。

 E社は自社システムの最大の問題は、オフコンベースのバッチ処理であると分析し、その改善を第一の目標に掲げた。ERP導入プロジェクトは社長自らが陣頭指揮を執り、必要に応じて従来の業務フローの変更やZに対するカスタマイズもやむを得ないという考え方を貫いた。実際、E社では営業担当者が在庫管理担当者に個別に確認を取り、在庫引き当てを行う行為を禁止し、Zの販売管理からのみ引き当てのための受注情報を入力することをルール化した。

 また、Zの製品IDは書式上の制限事項があり、E社がこれまで用いていた形式に対応できなかった。当初の予算を超えた費用を要したが、経営判断としてカスタマイズによる対処を施すことに決めた。その結果、バッチ処理は解消され、販売管理から受注情報を入力してからほぼリアルタイムで在庫の引き当てがなされるようになった。

 E社のERPはその後も順調に稼働を続け、今後は顧客である病院側に対してウェブを介して受発注状況を確認できる仕組みを提供する予定である。

成否の分かれ目

 同じ課題を持ち、同じERPパッケージを導入しながらも、なぜD社とE社でここまで差が出てしまったのだろうか。その分かれ目こそが冒頭に挙げた3つのポイントにほかならない。

ポイント1:オフコン時代のシステムプロバイダーとの関係を継続するかどうか

D社はZに詳しいからという理由で既存のオフコンベースのシステムを担当したF社との契約を解消し、新たにG社を登用した。しかし、G社は営業担当者が個別に在庫管理担当者に納期確認を取っているという既存のD社における業務フローの現状を理解しないまま、安易にZの持つ注文書発行機能をアピールしてしまった。

 既存システムの理解度と導入予定のERPの理解度のどちらを優先すべきか。というのは難しい問題であるが、よほど特殊なケースでない限りは既存システムへの理解度を重視すべきだろう。中堅中小企業ではオフコン時代のシステムプロバイダーにERP導入も依頼するケースが多くを占める。そうしたシステムプロバイダーは何らかのERPパッケージを取り扱っているのが一般的である。

 しかしながら、各企業が基幹系システムに抱える課題は多様化しており、既存システムプロバイダーが提示するソリューションが自社にマッチするとは限らなくなってきている。現在契約しているシステムプロバイダーが導入予定のERPに関する経験がなかった場合には、E社のようにERPベンダーの協力を要請するのが無難である。もちろんサポートやコンサルテーションのコストは加算されることになるが、D社のような失敗プロジェクトと比較すれば負担ははるかに軽いはずだ。

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