ポイント2:ERP導入を遂行する組織に業務変更や予算変更の権限が与えられているか?
ERP導入に際してはプロジェクトの途中で業務変更や予算変更が発生することが少なくない。ありがちなのはプロジェクト初期では経営陣が積極的に参画してリーダシップを取るものの、構築/運用フェーズになってからは部門長に一任してしまうケースである。E社の事例のように、システム構築段階になってからカスタマイズの必要性が発覚することもある。試験運用の段階に入ってから急に各部門から不満の声が噴出するというケースも枚挙にいとまがない。初期段階だけでなく運用段階に至るすべてのフェーズにおいて、しかるべき権限を持った人材がERP導入プロジェクトを主導するという組織体制の整備が非常に重要なのである。
ポイント3:何のためのERP導入なのか?
ERP導入における問題点を扱う際には常に言われていることであるが、「そもそもの目的を見失わない」ことを最後のポイントとして挙げておきたい。D社では発注から納期回答までに時間がかかるという本来の課題を忘れてしまい、ERP導入そのものが目的化してしまっていた。
実はこの問題はポイント2とも深く関係している。D社のように十分な権限がなく、かつ特定業務の意向のみを反映してしまいやすい立場の人材をプロジェクト責任者に据えると、往々にしてERP導入が特定部署のニーズに偏ってしまったり、ERP導入そのものが目的化してしまいやすい。
とはいっても、ERP導入の目的を明確化し、かつそれをプロジェクト期間中に堅持しながら遂行できる人材がいる中堅中小企業は少ない。社内に適切な人材がいないのであれば、ERPベンダーなどにコンサルタントによる支援を依頼することも考えるべきである。コストが加算されることになるが、失敗プロジェクトを回避できることを考えれば十分検討に値する選択といえるだろう。
今回はケーススタディの最終回ということで、単なる業種別事例紹介にとどまらず、中堅中小企業でのERP導入における根本的な課題とその解決をケーススタディを通じて考えてみた。
連載の最終回となる次回はERPを取り巻くさまざまな環境変化をベンダー視点とユーザー視点それぞれから眺めつつ、将来のERP像について考えてみたい。特にSaaS(サービスとしてのソフトウェア)やクラウドコンピューティングといった新たなシステム形態とERPとのかかわりなどについて述べていく。
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