しかし、私の指摘に対して、マネジャーからの回答は意外なものであった。
マネジャーは「齋藤さんのご指摘は妥当なものかもしれないが、受け入れることはできない」と言ってその理由を語った。
理由その1:部長が何人も参画して、1年もかけてベンダー2社まで絞り込み、予算も2億円として稟議書まで作ったのに、いまさら、ERPは不要です、予算もオーバースペックでしたなどと社長に言うわけにはいかない。それではPTのメンツが立たない。
理由その2:ウチの会社は儲かっている。IT投資を2億円したところでどうってことはない。経理部長もPTにいるので確かめてある。社長もその気になっている。予算は多い方が後々は楽である。
理由その3:私たちは寄せ集めのPTであって、課業が本業である。この先ITシステムを導入するにあたって、プロジェクトにこれ以上付き合わされることは迷惑。残ったベンダー2社はどちらも発注してくれれば、皆様に極力負担をかけずにシステムを完成させますと言ってくれている。
理由その4:導入費用を減らせば会社にとっては利益になるかもしれないが、私たちには余計な手間とリスクが増えるだけ。導入費用を減らしたからといって、ほめられるわけではない。予算をしっかり取ってリスクを低減した方が、失敗して責任を取らされるよりよほどいい。
そして、マネジャーは「2億円が妥当と言ってくれるのならコンサル契約もできるが、そうでなければこの話はなかったことにしたい」と付け加えた。
私は、後で報告書を提出しますということで、その場を辞した。社長あてに真相を書いて送ろうかとも思ったが、私がここで波風を立ててもPTにつぶされるであろうし、社長も一過性の付き合いのコンサルより、定年まで付き合う社内の人間の言い分を重視するであろう。仮に私の提案を社長が認めたとしても、課業の長達がプロジェクトに協力してくれるとは考えられない。
また、この会社が2億円を投資したところで困る人がいないのも事実である。
「大人の結論」として、社長に説明していただきたいとPTあてに私の考えとこれからなすべき施策をまとめたリポートをお送りした。PTが私のリポートを握りつぶすであろうことは読み筋である。
もちろんコンサル依頼はなく、私にとってビジネスにはならなかったが、妙に納得できる結末であった。
社長の失敗は相談の相手と時期を間違えたことであった。
さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。
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