クラウドコンピューティングに見るERPの将来像SaaSには限界あり(2/3 ページ)

» 2008年09月16日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

鍵はネットワークならではの利点の訴求

 パッケージの単なる焼き直しではなく「ネットワークにつながっていることがメリットとなる仕組み」と合わせて提供することが必要になる。TISがオービックビジネスコンサルタントの協力を得て提供している「ECセンター for 奉行」はその例である。EDIサービスとERPパッケージ製品「奉行V ERP」を組み合わせたサービスを提供することで取引先企業の増加や変更への対応、リアルタイムでの在庫確認などを実現している。

 サプライヤーとバイヤーが互いにネットでつながっており、それぞれが自社の基幹システムと結合していることで、企業間の受発注業務を確実かつ迅速に実施できる。パッケージだけでは難しい利点を生み出している。

 ERPにおけるSaaS活用は、構成モジュールを無理にオンライン化するのではなく、ネットワークに接続されているからこそ得られる利点を訴求し、ネット接続サービスと基幹システムの結合を徐々に緊密にしていくという段階的アプローチを取るのが現実的である。

 つまり「ERPにおけるSaaSの活用=基幹業務データを外に預ける」というオールorナッシングの発想ではなく、基幹業務データのうち必要なデータのみをSaaSで活用する考え方である。セールスフォース・ドットコムとNTTコミュニケーションズが提供している「Salesforce over VPN powered by NTT Communications」は、VPNによってSaaSと社内システムとを安全に接続するものであり、上記に述べたようなSaaS活用形態の契機となる動きであるといえる。

モジュール化だけではカスタマイズに対処できない

 そうした動きを支えるものがERPの「モジュール化」である。SAPやOracleといった海外の大手ベンダーはSOA(サービス指向アーキテクチャ)の発想を取り入れ、ERPをモノリシックな業務基盤ではなく、疎結合されたモジュールの集合体として再構築している。こうしたERPのSOA化が進めば、自社の基幹システムを構成するERPモジュール群のうち、あるものは社内運用、別のあるものはSaaSを利用といった「オンプレミス/SaaS複合型ERP」も多く見られるようになると予想される。

 可能な限りモジュール化されたERPを中堅中小企業向けにSaaSで提供しているものがSAPの「SAP Business By Design」である。日本では2009年末にサービス開始が予定されている。多様な選択肢のERPモジュール群をそろえることで、企業ごとに異なるニーズを吸収するという考え方である。これまでの考察に従えば、こうした細分化されたERPモジュールとSaaS運用環境と自社内システムを結ぶ安全なネットワーク経路があれば、ERPにおけるSaaS活用はうまくいきそうである。

 しかし、ここには依然大きな課題が横たわっている。それはERPパッケージ導入の障害にもなっていた「カスタマイズ」の問題である。どんなにモジュール化されていても、各モジュールをカスタマイズできないのでは自社業務に完全にフィットさせることはできない。「Business By Design」でも現時点では各モジュールのカスタマイズには対応していない。ERP大手のSAPといえども、完成度の高い多様なERPモジュールをそろえた上で、さらにカスタマイズをサポートすることは至難の業ということなのだろう。

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