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「差別化」に潜む落とし穴戦略プロフェッショナルの心得(1)(3/3 ページ)

» 2008年09月18日 08時00分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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 実はここに落とし穴があります。

 セールスが顧客に会って間違ったバリュープロポジションに基づいて詳しく製品を説明すると、顧客が納得し、売り込みが成功する場合もあります。この場合、何が起こっているのでしょうか。

 実はこのような場合、時間をかけて製品を説明しているうちに、顧客自身が自分なりに企業側の説明を解釈し、自分に合ったバリュープロポジションを見つけている(言い換えると、企業が提案しているバリュープロポジションを自分なりに「翻訳」している)ケースが多いのです。

 しかしながらこれをもって、企業側は「やはりわれわれは間違っていなかった。われわれの製品の価値(実は、間違ったバリュープロポジション)を待っている顧客はほかにもいるはず。われわれの営業努力が不足しているのだ」

 と考え、さらに努力を重ねてしまうようなことも往々にして発生してしまうのです。バリュープロポジションは、いかに分かりやすく、かつスムーズに、ターゲットとなる顧客に受け容れられ、顧客の課題が解決できるかが鍵です。もし現在のバリュープロポジションが顧客になかなか受け入れられない場合は、再度見直す必要があります。

 また、バリュープロポジションを考える上で必要な観点は、顧客自身の顧客(例えばエンドユーザー)について考えることです。なぜなら、企業の行動を決定する大きな要因の1つは、顧客の要望だからです。より的確にバリュープロポジションを定義するためには、顧客単体で価値を考えるのではなく、顧客の顧客も含めた業界全体のバリューネットワークの中における価値を考慮する必要があります。

 バリュープロポジションの妥当性は、企業が多大な投資をして世の中に出した製品やサービスの成功を握る鍵です。それを検証するコストは、製品開発やプロモーションに掛ける膨大なコストに比べれば決して大きなものではありません。じっくり検証した上で、バリュープロポジションの定義を行うべきでしょう。

(注) 本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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