続いて試験制度に関して述べる。ITIL V2には3種類の資格があった。
なお、「ITIL Practitionerの上にITIL Managersが位置する」と解釈をしている人がいるが、それは間違い。この2つの資格に上下関係はない。対象が異なるのだ。現場の技術者であれば、ITIL Practitionerを受けるべきだろう。ITIL Managersは意思決定者、ITソリューションコンサルタント、経営者層が受けるべき試験である。ITIL Managersを現場の技術者が受けたとしても、その試験の目的と傾向にそぐわない。
ITIL V3では、この試験制度が大きく変わる。
まず、「クレジット制」という制度が導入される。ITIL V3においては、「ITIL V3 Foundation Certificate in IT Service Management(ITIL V3 Foundationと略す)」をはじめ10種類の資格がある。ITIL V3 Foundationは認定コースを受けなくても受験できる(認定コースを受けることを強く推奨している)。この上に、ライフサイクルに関した試験が5つ、ケイパビリティに関した試験が4つ用意されている。これら9つの試験は「Intermediate」といわれており、認定を受けた対応コース(講習会)を受けた上で試験に合格すれば、それぞれの資格を修得できる。分野別に資格が細分化されていると考えればいいだろう。
それぞれの試験に合格し、資格を修得すると「クレジット」を取得できる。ITIL V3 Foundationなら2クレジット、ライフサイクルに関した資格なら1つ当たり3クレジット、ケイパビリティに関した資格なら1つ当たり4クレジットを取得できる。そして合計で22クレジット取得すれば、「ITIL Expart」という資格(学位、と呼んでいる)が得られる。将来的には、ITIL Expartよりもさらに上の学位を用意することも考えられている。
ITIL V2試験(資格)とITIL V3試験(資格)は、互いに独立した存在である。また、V2の資格取得者はBridge試験を受けることで近道ができる。例えばITIL V2 Foundation修得者は、すでに1.5クレジット取得しているとみなされる。その上でV3 Foundation Bridge試験(0.5クレジット)に合格すれば、ITIL V3 Foundationと同等の資格を得たと認定される。ちなみにITIL V3 Foundation試験は60分・40問だが、V3 Bridge試験は半分の30分・20問である。この2つの試験は同じ試験データベースから問題が抽出されているので、範囲・難易度は同程度である。同様にITIL Managers資格取得者はすでに17クレジット持っているとみなされるので、Managers Bridge試験(5クレジット)に合格するとITIL Expartになれる。
ITIL V3の試験はすべて選択式である。ITIL V2のManagers試験は論述式なので、もしかしたら難易度はITIL V3の上位試験の方が簡単かもしれない。しかし試験が細分化されている上に、必ず対応コースを受けなければならないので金銭的・時間的なハードルはかなり高くなるだろう。
ITIL V2の試験も当面は継続される予定なので、受験を考えている読者は急いでITIL V3に乗り換える必要はないと考える。ITIL V3を学習した上で、自社はどちらの考え方が導入しやすいか、または企業戦略にあっているかを吟味した上で選択するべきだ。
谷 誠之(たに ともゆき)
IT技術教育、対人能力育成教育のスペシャリストとして約20年に渡り活動中。テクニカルエンジニア(システム管理)、MCSE、ITIL Manager、COBIT Foundation、話しことば協会認定講師、交流分析士1級などの資格や認定を持つ。なおITIL Manager有資格者は国内に約200名のみ。「ITと人材はビジネスの両輪である」が持論。ブログ→谷誠之の「カラスは白いかもしれない」
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