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手強いライバル、成熟市場――あなたならどうする戦略プロフェッショナルの心得(3)(2/2 ページ)

» 2008年09月22日 14時00分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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 破壊的技術の代表的な例は次のとおりです。

  • 真空管に対する破壊的技術……トランジスター
  • 電報や郵便サービスに対する破壊的技術……電子メール
  • 長距離電話に対する破壊的技術……インターネット電話

 クリステンセン教授は、破壊的イノベーションの例として、ディスクドライブ市場で起こった状況を詳細に研究しました。ディスクドライブ市場は、14インチドライブ、8インチドライブ、5.25インチドライブ、3.5インチドライブと世代が変わるたびに破壊的技術による技術革新が起こり、その度に新規ユーザーが開拓され、業界のリーダー企業が交代していきました。

 破壊的技術が市場でリーダーシップを持つ企業にとって脅威となっていくプロセスをまとめると、次のようになります。

  • 新規参入企業が破壊的技術による新製品を市場に出し始めた段階では、リーダー企業が提供する既存製品のユーザーを満足させる品質や性能になっていない
  • この段階では、リーダー企業のユーザーは既存製品を使用しているため、破壊的技術を活用した低い品質の新製品を必要としない
  • 一方で、リーダー企業は、自社の行動に大きな影響力を持つ既存ユーザーから要望されない限り、破壊的技術に投資できない。業績が優れたリーダー企業ほど、ユーザーが求めないアイデアを切り捨てる仕組みが社内で整備されているためである
  • その間に新規参入企業は、破壊的技術を活用した新製品を、それまで既存製品を使っていなかった新規ユーザーに対して、新用途を開拓しながら浸透させていく
  • 当初は技術的に未成熟であった破壊的技術は、技術的な成長の余地が大きいため、新規市場に浸透していくに従って、急速に進化する
  • 破壊的技術を活用した新製品は、技術面の進化に伴い、既存市場にも徐々に浸透していく
  • ある時点で新製品は、リーダー企業の既存製品ユーザーの要望に対しても、低コストで十分に応えられる品質と性能を備えるようになる
  • この時点で、リーダー企業の既存製品は、新規参入企業の新製品にコスト面で対抗できない状況に陥る
  • 新規参入企業がリーダー企業にとって代わる

 つまり、冒頭の課題に対応するためには、「新規参入企業」の立場で考える必要があります。市場における破壊的技術が何かを把握し、断トツに強い競合企業に勝つために破壊的技術を活用する。新しい顧客に新しい価値を提供し、市場を破壊するかを考えることが、1つのアプローチです。

 同じ市場でも、対象顧客を変える方法もあります。破壊的技術の場合も、当初はローエンドのユーザーや、ユーザーではなかった人たちの市場を開拓し、破壊的技術の性能が上がるに従って従来の市場でのシェア獲得につなげることを狙います。

 これ以外にもさまざまな戦略が考えられます。マーケティング戦略を策定するのであれば、単なる模倣戦略ではなく、知恵を絞りたいものです。一種のゲームとしていろいろと考えてみると、面白いのではないでしょうか。

(注)本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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