CRMの新潮流

「こだわり消費」を促す――顧客マネジメント成功の鍵CRMの新潮流(2/3 ページ)

» 2008年09月24日 08時00分 公開
[重政泰二, 石川輝(ベリングポイント),ITmedia]

 もう1つ例を挙げてみよう。アパレル業界には規模は小さいながらも、大手のセレクトショップを相手に一歩リードしている企業がある。要因は上手な顧客マネジメントの実践だ。わたしが利用しているあるセレクトショップでは、商品のブランドヒストリーや作り手のこだわりなどを店員が丁寧に説明してくれる。ネクタイ1本の付き合いから始まり、今ではスーツやシャツ、靴など一式をそろえるようになった。

 値段は確かに高いが、商品のデザインや作り手の思いを店員から伝え聞き、実際に手に取り、着てみると値段を超えた満足感が得られる。本当の服の良さについて店員と語り合うことで、服への造詣が深くなる。普通のものでは満足できなくなってくる。店員も、接客の場から顧客の琴線に響く顧客経験の事例を収集することで、顧客マネジメントの精度を高められる。

 他方、大手系列のセレクトショップでは、品ぞろえは似ているものの商品のストーリーやデザインの特徴を顧客に説明しきれずに、顧客経験を植え付けられていない例も一部散見される。顧客マネジメントの実践は、顧客を説得、啓蒙できる担当者のスキルに負うところが大きいのだ。

図3 店舗スタッフと顧客が互いに顧客経験を深め合う関係

IT導入と「おもてなしの心」で成功した自動車メーカー

 顧客マネジメントの実践にITインフラは必ずしも必要ではない。だが、顧客とのコミュニケーション導線上にITインフラを連携させることにより、大規模な顧客マネジメントを推進できることがある。ある大手国産自動車メーカーは、海外展開していた高級ブランドを日本で立ち上げる際にITインフラを連携させた。商談プロセスにおけるセールススタッフやリアルチャネル、顧客サービスなどで活用されるインフォマティクス、コンタクトセンターなどをつなぐことで、顧客マネジメントの実践にあたった。

 海外でも自動車自体の性能やサービス体制は高く評価されていたが、日本拠点の立ち上げでは、日本独自の「おもてなしの心」をコンセプトとしたサービスを提供することにした。顧客が初めて販売店を訪れて商談を重ね、成約に至る購入プロセスと購入後のカスタマーサービス全般における顧客コミュニケーションの導線上に、おもてなしの心をベースにした顧客経験を盛り込んでいる。

 例えば、成約時に購入者は落ち着いたオーナーズサロンに通され、オーナーになったことを実感できる。車に乗り込む際にもおもてなしの心を配慮している。キーレスエントリーするとフットライトが点灯し、シートとハンドルをあらかじめ設定してある角度にリセットするのだ。発進時の動作の中にも、オーナーを迎え入れるというおもてなしの心を組み込んでいる。

 運転中も、オーナーがコンタクトセンターに連絡すると専任のオペレーターが対応し、ホテル予約や観光スポット案内などコンシェルジェのようなサービスを提供する。もちろん、連絡時にオーナー名は特定されており、オーナーの好みに合ったサービスを勧める。かゆいところに手が届くサービスをITが支援する。

 この自動車メーカーは、顧客経験を提供するオペレーションとしてITを活用し、商談、成約、カスタマーサービスといった顧客接点ごとに常におもてなしの心を感じてもらうようにしている。オーナーでいる限り、自動車に関する顧客経験を最大限楽しむことができるのだ。

図4 コミュニケーション導線上の顧客経験(ITインフラ導入)

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