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値引き販売という麻薬戦略プロフェッショナルの心得(4)(2/3 ページ)

» 2008年09月25日 15時30分 公開
[永井孝尚,ITmedia]

 一方で、市場環境が厳しい中で、値引き販売を考えなければならない状況もあります。確かに特売をすると、その時点では売り上げが一気に上がり、即効的な結果を得られます。そのため、特に期末などには売り上げ目標を達成するために特売や値引きを行う店舗や企業を多く見かけます。

 しかし弊害もあります。例えば小売業では、値引きする日は大勢のお客さんが来ますが、値引きしない日はお客さんが来なくなってしまいます。さらに、値引きが常態化します。顧客は通常価格では買わなくなり、特売期間だけ来るようになります。

 日本国内において、値引きと販売状況の関連性を調査した研究があります。複数の店で同一商品の販売価格とその売り上げの関係を長期間調査した研究です。結果は、次のとおりでした。

  • 常に一定の金額で売っている店の場合、商品はコンスタントに売れた
  • 通常はやや高めの価格、特売時にはその半値で売っている店の場合は、常に半値でしか売れない。高値と安値の真ん中の価格に設定しても、あまり売れない。

 つまり特売や値引きをすることで、本来は適切な価格で購入していた消費者の買い控えを生んでしまうということです。例えば、「この店は時々大幅な安売りをする」と分かれば、価格に敏感な消費者は買い控えて安い時期のみを狙って購入するようになります。こうすると、通常価格の期間はあまり売れずに、値下げした時期のみ売り上げが上がる、という悪循環になります。

 「大きな店舗なのに、値引きのない日は閑散」という状態になり、店舗施設稼働率の観点でも問題が生じます。

 法人向けビジネスの場合も同様です。法人向けビジネスでは、多くの場合、値引き交渉はセールス担当者が行います。案件ごとの値引き交渉に人的コストが掛かり、かつ、案件が締結するまでの期間が長期化する可能性もあります。期末の値引きが常態化すると、顧客は期の途中で契約せずに、期末まで粘って交渉するようになる可能性もあります。その方が調達コストを下げられるからです。

 確かに、値引き販売は「製品やサービスの価値を顧客に訴求する」という営業努力を徹底しなくても、顧客が購入する可能性を高められるという即効的な効果を持っています。しかし同時に、企業の体力を徐々に失わせる麻薬的な効果も併せ持っていることを、わたしたちは十分に自覚する必要があります。これを避けるためには、戦略を立てる段階で、バリュープロポジションを明確にし、ターゲットとする顧客と、その顧客に対する価値を明確にすることが必要です。

 その上で、バリュープロポジションを事業にかかわる関係者で共有する仕組みを作り、認識を徹底し、顧客に訴求するためのさまざまなセールスツールを用意し、価格ではなく価値の勝負をする必要があります。

 「でも価格勝負で大きな利益を上げている企業も実際にあるではないか」と考える方もいるかもしれません。

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