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営業とマーケティングは考え方が正反対戦略プロフェッショナルの心得(5)(2/2 ページ)

» 2008年09月29日 09時24分 公開
[永井孝尚,ITmedia]
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 一方で、マーケティングの相手は、市場(マーケット)であり、時間軸の中心は未来です。現在の問題も考慮しつつも、来期、来年、顧客に価値を届ける仕組みを作るために何をすべきかを考えます。つまり、マーケティングの仕事は「未来志向」です。ただし、ビジネスの時間軸が短くなっているのに伴い、マーケティングの時間軸も短くなりつつあります。

 「市場(マーケット)」は、目の前に実在している顧客とは異なり、実体はありません。抽象的で概念的な存在であり、定義の仕方でさまざまな形に無限に変化します。実体がなく、概念である市場に対して、自社の認知度を上げようとしたり、あるいは市場そのものを理解しようと考えるマーケティングの人たちは、物事を抽象化、構造化、モデル化して考えるようになります。

 この結果、マーケティングの考え方は、「未来、抽象的、構造的、概念的」になります。

 このような基本的な考え方を把握すると、両者の違いが理解しやすいのではないでしょうか。逆に、このようなお互いの立場の違いを理解せずに両者が議論すると、議論のすれ違いが発生してしまいます。

 マーケティング担当者がセールスと協業する場合、セールスが担当している顧客に対して、具体的にどのような価値やメリットを現時点で提供できるかを明確にした上で議論に臨むことで、よりスムーズに協業が進みます。セールスにとってもマーケティングの力を活用することで、将来の新規セールス案件発掘が格段に容易になります。

 このように、セールスとマーケティングは一見正反対の考え方をしていますが、目指すところは両者とも顧客の課題解決のための価値提供で一致しています。そのアプローチ方法が異なるだけですので、両者が相容れないということは決してないのです。

 実際には、セールスにもマーケティング的な発想が求められています。優れた成績を上げているトップセールスの多くは、自分が担当するテリトリーで、意識するしないにかかわらず、マーケティングの考え方を実践しています。つまり、「目の前の顧客の現実的な問題に対処しつつ」「市場を把握し、顧客に対する長期的なビジョンを持ち、構造的な問題を特定し、自社のバリュープロポジションを把握し」「具体的な問題解決方法の提案」を常に考えています。

 同様にマーケティングの中には、目の前の顧客に対する問題解決能力が極めて高い方もいます。つまり、「市場の動向を把握し、将来どのようにすべきかを考えつつ」「現在の顧客に対する具体的な解決策の提供」も考えています。

 このようなセールスおよびマーケティングの両面で非常に能力が高い方はなかなか得難い人材で、貴重です。

 セールスはマーケティングの考え方を、マーケティングはセールスの考え方を、それぞれ理解し、日々の仕事で活用することで、仕事は確実にレベルアップします。

(注)本書に掲載された内容は筆者である永井孝尚個人の見解であり、必ずしも筆者の勤務先であるIBMの立場、戦略、意見を代表するものではありません。

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著者プロフィール:永井孝尚(ながいたかひさ)

永井孝尚

日本アイ・ビー・エム株式会社ソフトウェア事業部にて、マーケティングマネージャーとして、ソフトウェア事業戦略を担当。グローバル企業の中で、グローバル統合の強みを生かしつつ、いかに日本に根ざしたマーケティング戦略を立てて実践するのか、格闘する日々を送っている。アイティメディア「オルタナティブブログ」の「永井孝尚のMM21」で、企業におけるマーケティング、ビジネススキル、グローバルコミュニケーション、及び個人のライフワークについて執筆中。


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