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» 2008年09月30日 15時00分 UPDATE

コンサルタントの視点:CRMの新手法は「スマートレコメンデーション型」

アマゾンは検索対象に関連する商品を推奨するレコメンデーションの機能を提供する。ダイレクトメールを送るなど囲い込みを中心とする従来型のCRMに代わり、今後は「スマートレコメンデーション型」のCRMが主流になる。

[小幡哲丈(アビーム コンサルティング),ITmedia]

 デジタル社会の到来とともにインターネットが普及し、消費者はより多くのものをインターネット上で購入すると予測されていたが、実際はそう簡単な展開にはならなかった。多くの場合、インターネットは購入を検討するための情報源として使われ、実際に購入するのは店頭や営業担当者からという調査報告もある。

対面で顧客の課題を解決して信頼獲得

 これまで企業はWebサイトの充実を図ってきたが、実際には情報源としてあまりアクセスされていないケースが多い。消費者は価格比較サイトやブログなどネット上のコミュニティーで入手できる口コミ情報を重視しているが、すべて信用しているわけではなく、実際には、対面のコミュニケーションを通じて信頼できる製品やサービスであるかどうかを確認してから、購入を決めている。

 ネットビジネスの成功事例として取り上げられるアマゾンでは、検索している本に合わせて関連する商品を推奨するレコメンデーションの機能を提供している。注目すべきは優れたユーザーインタフェースだ。対話的な操作で、あたかもこちらの希望を知っているかのように、リアルタイムに推奨情報を返してくれる。情報を提供されているのではなく、まるで人とコミュニケーションしている気分になる。店頭でのやり取りに近い感覚だ。

 こうした背景を踏まえ、デジタル時代のCRMのあるべき姿を考えてみたい。従来のCRMは顧客を囲い込むことを目的として、顧客データを分析し、推奨商品を掲載したダイレクトメールを送るといったプッシュ型のアプローチだった。しかし、そのような企業側の論理は顧客には響かなかった。

 これからのCRMでは、押し付けではなく顧客とのコミュニケーションの中で、適切なタイミングで、必要な情報を提案することが重要だ。いわば「スマートなレコメンデーション」だ。このスマートレコメンデーションを通じて、CRMが本来目標としてきた顧客の信頼獲得をようやく実現できるのである。製造業や金融業がこうした新しいCRMを積極的に取り入れつつある。

 例えば、ある製造業の企業は、ユーザーが商品を選ぶ、購入する、使う、買い換えるなどのシチュエーションと、想定される顧客のタイプ別に複数のシナリオを設定し、シナリオごとの対応方法、提供すべき情報などを定義して現場で活用している。

 製造業では、特にカスタマーサービスが顧客つなぎとめの鍵になる。そのため、例えば顧客の製品が故障したときの対応が重要になる。顧客のタイプや製品、使用状況によって対応は変わるべきであるが、これまでは現場の裁量に任されていた。それを全社的な活動として位置付け、マーケティング部でシナリオを設定し、現場の対応方法を定義し、顧客の状況に合わせた適切な提案ができるシステムとして実装している。

 この企業は、顧客分析に従来からあるマイニング技術を利用し、現場への指示にはCRMシステムを使っている。重要なのはシナリオの鮮度であり、顧客対応現場での実用性である。人の活動を正確に支援する仕組みとして、技術を活用しているのである。現場で収集される顧客の声をすべて集約し、担当者が丹念に分析した上で、役員へ報告する。シナリオ、対応方法の改善、製品開発の重要な情報源にしている。

顧客志向で現場の課題解決力を強化

 では、企業としてはどのようにして新しいCRM、すなわちスマートレコメンデーション型のCRMを実現すればいいのか。それには顧客同士の「コミュニティー」「企業活動」「タッチポイント」という3つの構成要素が重要だ。

 インターネットのブログやSNSなどに代表されるコミュニティーは、顧客にとって事前に情報を入手する重要な場である。ただし、ここは不可侵領域であり、企業は割り込めない。強引に割り込もうとすれば、かえってブランドイメージを傷つけることは周知の事実である。

 そこで重要になるのが、店頭、電話、FAX、電子メール、Webなど企業が顧客と接触するタッチポイントである。顧客との接触時に、課題などを把握した上で適切に対応するためには、このタッチポイントの強化は必須だ。

 顧客は、市場での価格、口コミの評判、時には対応の良い販売員の名前まで知った上で、購入の判断をしようとしている。そのような顧客に信頼されるような質の高いレコメンデーションをすることは、現場の個人の知識、技量、判断だけでは難しい。全社の知識やノウハウを活用し、現場の販売員を支援する仕組みが求められる。先ほどの事例でいえば、マーケティング部でシナリオを設計し、現場と連携して対応方法を定義し、それを顧客対応時に容易にアクセスできるシステムとして実装するのがポイントといえる。

 こうした企業全体の活動によって、顧客のシチュエーションに対応した情報を準備し、必要に応じて適切にレコメンデーションを提供することで、顧客とのコミュニケーションが深まり、信頼関係の構築につながるのである。

 ここで忘れてはならないのが、CRMはシステムだけでは実現しないことである。CRMは多くの部分を人が実践しなければ成立しない。顧客を中心とした業務活動が全社的に整合性の取れた形で実施されるマネジメントが必要となる。

効果的なKPI設定が鍵

 われわれは「クライアント・セントリック・マネジメント」(顧客中心主義の経営管理)と呼んでいる。中心となるのは評価指標(KPI)を顧客志向で設定する作業だ。顧客の要望にどれだけ応えられたかという全社のKPIを設定し、さらに個々の部署の活動が顧客の課題解決にどれだけ貢献しているかを目に見える形にし、全社としてマネジメントしていくという手順である。

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 先ほどの製造業の事例でいえば、主なKPIとして「修理に要する時間」「顧客からの問い合わせの電話回数」を設定する。修理に要する時間を分解すると、問い合わせ対応、診断、部品手配、技術者のアサイン、修理にかかった時間などが挙がってくる。ここで、例えば顧客からの問い合わせの電話回数を減らす手立てとして、1回の電話で情報提供を済ませる、Webでのステータス情報公開などが考えられる。改善策を実施していけば、顧客志向のCRMが実現できる。

 なお、評価すべきKPIは、顧客との信頼関係構築への考え方によって変わってくる。KPIの設定と管理は、CRMを成功させ、企業を成長させる鍵である。新しいCRMへのアプローチは、全社の活動を顧客という軸を中心に構造化し、顧客志向の度合いを評価するKPIを設定するところから始まるのである。

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著者プロフィール:小幡 哲丈(おばた あきひろ)

小幡 哲丈

アビーム コンサルティングプロセス&テクノロジー事業部 CRMセクターリーダー プリンシパル。OA機器メーカーを経て、1999年アビームコンサルティングに入社。製造、金融、通信などさまざまな業界のCRMプロジェクトを多数手がける。2007年CRM事業部長、2008年より現職。


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