クラウドに賭けることができるか?雲の向こうは天国か地獄か(2/5 ページ)

» 2008年10月07日 15時11分 公開
[Stan Gibson,eWEEK]
eWEEK

リスクと報酬

 こうした熱狂の一方でクラウドコンピューティングには、リモートコンピューティングサービスが常にそうであったように、顧客からいくつもの疑問を突きつけられている。クラウドコンピューティングの先駆者であるASP(アプリケーションサービスプロバイダー)やSaaSベンダーに対してと同じように、ユーザーは自分たちのデータの安全性やサービスが停止したときの補償、クラウドプロバイダーが破たんしたときのデータの扱い、データがオフショアに移される可能性などについて知りたがっている。

 断続的なサービス停止は、注意しなければならない危険な兆候である。AWSのS3は今年2月に数時間サービスが停止し、7月には8時間に及ぶダウンタイムに苦しんだ。Google GmailとGoogle Appsメッセージングおよびコラボレーションクラウドサービスも、8月に15時間近くサービスが停止した。

 「データの格納場所など、問題はまだ幾つか残されている」と語るのは、Gartnerのアナリスト、デビッド・スミス氏だ。「われわれは製品サイクルの初期の段階にいる。いま(クラウドコンピューティングを)評価中の人々は、こうした問題を次々に指摘している」

 Forresterのアナリスト、ジェームズ・スタテン氏は、「クラウドコンピューティングサービスを利用している間、データがどこにあるか分からなければ、企業は法的要請に基くデータの一貫性を証明することができない」と話す。

 医療保険請求処理業務のコスト削減を図るTC3 Healthにとって、クラウドのメリットはリスクに十分見合うものだった。TC3は請求処理の正確を期すために、膨大な量のデータ処理に対応できるキャパシティを必要としていた。

 「処理すべきデータは3000万件に達し、われわれは過負荷状態だった」と振り返るのは、TC3 HealthのCTO、ポール・ホーヴァス氏だ。

 TC3の標準的な処理アプローチを用いれば、コストの総額は75万ドルになるはずだった。しかし、TC3はAWSに追加的なキャパシティを求めた。Amazon.comのクラウドサービスを顧客向けにカスタマイズするRightScaleへの支払いを含めて、そのコストは22万ドルに収まったという。

 「月々の支払いはクレジットカードで処理している。1カ月あたりのコストは、数百ないし数千ドルの範囲」とホーヴァス氏は説明する。

 TC3はAWSに、サーバ1台1時間あたりのコストが10セントから80セントまでの、6つの異なるサーバコンフィギュレーションを持っている。

 こうしたサービスの場合、セキュリティと機密性が気になるところだが、ホーヴァス氏によると、個人情報はAWSへ送る前にフォームからストリップアウトし、その上でデータをすべて暗号化するという。ホーヴァス氏もサーバがどこに設置されているか正確には知らないが、米国内に存在することは確認しているという。

 TC3のように大企業が商用クラウドサービスを活用するケースがないわけではないが、基本的にクラウドの主たる受益者は、高価なITシステムを運用できない中小企業だ。10年前、ASPがターゲットにしたのと同じ企業群である。多くの場合、クラウドコンピューティング分野のスタートアップ企業がほかのスタートアップ企業にサービスを提供するといった構図だ。

 近くβサイトを立ち上げるブライダルコミュニティーのソーシャルネットワーク、Blissbook.comの創立者でCEOのリック・ウィー氏は、同じく現在β段階のクラウドサービスで、開発プラットフォームを提供するGoGridを選択した。ウィー氏はこれまでにも数社のスタートアップ企業を立ち上げた経験があるが、ITインフラに貴重な資本を投入することがいつも大きな負担になっていたという。

 「クラウドコンピューティングはスタートアップ時のコストを劇的に下げてくれる」とウィー氏は語る。「必要なものだけに料金を支払えばよいからだ。われわれは過剰投資でも過少投資でもなく、効率的にビジネスを成長させる必要がある。大規模なインフラ投資を行わずに、俊敏な拡張性を持つことができるのは大きなメリットだ」

 ウィー氏によると、GoGridなどのクラウドプロバイダーの中には、ソーシャルネットワークサイトでポピュラーなRubyプログラミング言語のフレームワーク「Ruby on Rails」でアプリケーション開発ができるようにしているところもあるという。

 一方、米メジャーリーグのWebサイト、MLB.comは、ワールドシリーズやオールスターゲーム、あるいはライバルチーム同士の伝統の一戦などのとき、しばしば高波のように押し寄せるファンからのアクセスに柔軟に対応する手段を探していた。

 いまから1年前、MLB.comはメジャーリーグのゲーム一試合に100部屋を割り当てるチャットアプリケーションを立ち上げた。ほとんどのゲームはその設定で十分だったが、「例えば、ボストン・レッドソックス対ニューヨーク・ヤンキースといった好カードでは、どの部屋もすぐに満室になる」と、同サイトのシステム管理者、クリスチャン・ゴウ氏は語る。

 「そうした瞬間的な需要の増大に対処するために、われわれはJoyentを利用することにした」と説明するのは、MLB.comのエンタープライズサービスネットワーク担当アーキテクト、ロス・ポール氏だ。

 2004年に創業したJoyentは、Webサイトを運営するための「Sun OpenSolaris」インフラストラクチャを含め、いくつかのクラウドサービスを提供している。

 「もうデータセンターで新しいサーバを構成し、ラックに入れて配線する必要はなくなった」とゴア氏は言う。「いつでも好きなときにJoyentに電話すれば、数時間後にサーバはプロビジョニングされ、稼働している」

 「Joyentはあらゆるタイプのサーバを完璧なソフトウェアスタックでプロビジョニングできる」とポール氏。「固定費や管理コストを完全に削減できる」と同氏は手放しで賞賛する。

 MLB.comはバックネット裏でチャットアプリケーションを成功させた実績を踏まえ、Joyentのサービスをほかのアプリケーション、例えばFacebook上で開発中のものなどにも適用することを考えている。

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