第1回:「キャンペーン管理」── チャネルに対する司令塔CRMチャネルの威力を活性化せよ

CRMチャネルの威力をブースト(増幅、活性化)するための取り組みは、企業が売り上げの拡大を図る上で極めて重要なテーマである。連載の第1回では、この「チャネルブースター」の核として、直接的にチャネルに対して「だれに対して、何を案内するか?」を指示してくれる「キャンペーン管理」を取り上げる。

» 2008年10月14日 10時00分 公開
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 1990年代の後半に勃興したCRMのムーブメントは、当時の大きな期待からその後の失望を経て、導入の容易さをうたったその後のSaaSの流れも汲みつつ、現在に至っている。バズワードのはしりでもある「CRM」という言葉が10年以上ものあいだ、くすぶり続けているのは、とりもなおさず企業にとって「顧客=売り上げを与えてくれる唯一の存在」が重要なテーマだからだろう。そして厳しい消費経済の状況、人口の減少、マスマーケティングの効力低下といった環境下において、「顧客」はますます重要なテーマとなってきている。

 ではなぜ、当時多くのCRMプロジェクトは失敗に終わったのか? 思い起こせば、CRMプロジェクトにおける投資対象の多くは顧客接点チャネルの実装にあった。SFA、コールセンター、次いで勃興したインターネットや電子メールを利用した「e-マーケティング」のシステム……、いずれも顧客との接点を管理するシステムだ。確かにこれらによって顧客とのコンタクトルートは確保された。

 しかし、「だれに対して、何を案内するか?」という点が忘れられていたのではないだろうか? だれに対して、何を案内するかを意思決定するためには、顧客に対する「知識」が必要だ。そして、知識を析出するには「データ分析」が必要になる。チャネルを企業の手足と捉えるならば、その手足に何をさせるかを判断するのは「頭脳」である。頭脳のない手足に何かを期待しても、それは失望に終わるのがせいぜいだろう。

 この連載「CRMチャネルの威力を活性化せよ」では、「だれに対して、何を案内するか?」を意思決定するための「知識」やそれを作り出す「分析」に着目し、どのようにしたらチャネルの威力をブースト(増幅、活性化)させることができるかを紹介していく。そのためのツールはさまざまなベンダーから紹介されているが、日本テラデータのデータウェアハウスエンジンである「Teradata Database」上で稼動するキャンペーン管理ツールの「Teradata Relationship Manager」や、データマイニングツールの「Teradata Warehouse Miner」を例に挙げ、どのように「チャネルブースター」の役割を果たすのかを説明していくことにする。

CRMチャネルの威力を活性化せよ INDEX
第1回:「キャンペーン管理」── チャネルに対する司令塔
第2回:「データマイニング」── 意思決定の究極指標、確率の算出
第3回:拡大するデータウェアハウスの役割

 チャネルブースターの核として、直接的にチャネルに対して「だれに対して、何を案内するか?」を指示してくれるのが、キャンペーン管理ツールだ。連載第1回は、これを取り上げる。

 マーケティング活動において、顧客への働き掛けの単位は「キャンペーン」と呼ばれる。日本でキャンペーンというとテレビコマーシャルでインセンティブ付きの商品紹介を行う「あれ」を思い浮かべがちだが、欧米でダイレクトマーケティングを展開する企業にとってのキャンペーンは、「特定ニーズに絞り込み、より小さな単位に対象顧客を絞り込んだ働き掛け」も含んでいる。そしてこのようなキャンペーンを数多く実施することによって、単一キャンペーンの反応率を改善しつつ、企業収入上必要な反応顧客ボリュームを確保している。そして、このようなキャンペーンの実行を管理するのが「キャンペーン管理」ツールだ。

Teradata Relationship Managerの画面 Teradata Relationship Managerの画面

チャネルの設定:どこで案内するか?

 キャンペーン管理ツールは、本質的に各チャネルから独立した存在だ。チャネル目線から見たとき、キャンペーン管理ツールは「だれに対して、何を案内するか?」を指示してくれる。

 しかしながら、マーケティング担当者の目線から見たとき、キャンペーン管理ツールはキャンペーンを設定するツールであり、「どこで、いつ、だれに対して、何を案内するか?」が設定される。ここで「どこで」を意味するのがチャネルだ。マーケティング担当者は実施するキャンペーン内容や案内する顧客に基づいて最適なチャネルを選択し、それによって高いレスポンス率を目論む。

 以下は電子メールとコールセンターの両方のチャネルで同一のキャンペーンを案内する際に、チャネル連携されるデータフォーマットの例である。キャンペーン管理ツールはチャネルごと、場合によってはキャンペーンごとにフォーマットを選定し、それぞれのチャネル用に顧客リストの提供を行う。

チャネルごとに異なるフォーマット チャネルごとに異なるフォーマット

タイミングの設定:いつ案内するか?

 また、キャンペーン管理ツールは、キャンペーン案内のタイミングも決定する。タイミングが来た段階でスケジューラーを回し、上に示したようなリストを作成し、各チャネルに対してリスト連携がなされる。

 シンプルな「プッシュ型」(*1)のキャンペーンであれば、「2008年12月1日にキャンペーン(クリスマスカタログ案内)実施」といった固定化されたスケジュールを設定するが、Teradata Relationship Managerでは顧客行動をトリガーにした、「擬似プル型」(*2)のキャンペーンも設定可能だ。これは欧米の金融機関において実施されている「EBM」(Event Based Marketing:イベント主導型マーケティング)と呼ばれる手法で、データベース上に顧客特有のイベントを検知するルールを設定し、ルールに合致した顧客をキャンペーンの対象顧客としてリストアップする仕組みになっている。

 EBMの一例として、「銀行口座への多額入金」というようなイベントが挙げられる。例えば、毎月25日に30万円ずつ給与振込される顧客の口座に対して、ボーナス以外で500万円の入金があった場合、顧客の生活に対する何らかの変化が想像される。宝くじが当たったのかもしれないし、住宅購入の頭金かもしれない。また、この500万円の使いみちは決まっていないかもしれない。だとすれば銀行は、このお金を定期預金や投資商品に誘導できるかもしれない。

 いずれにしてもコールセンターや渉外担当者からコンタクトを行い、資金運用に関するニーズを把握させるという「キャンペーン」が成り立つ。10万人に一斉配信するようなキャンペーンではなく、ニーズが発生した、最も反応確率が高いタイミングで実施されるマイクロキャンペーンだ。対象顧客の選定は、データ変化に基づいて完全に非同期で実施されるため、例えば1日30顧客しか対象とならないようなキャンペーンが、何年ものあいだ実行される。

 このときのイベント検知のルールは、例えば「昨日の入金額 > 1.5×平均入金額/預入(=いつもの入金額よりも1.5倍以上の入金額があった顧客)」と表現され、このルールに合致した顧客には「コールセンターを通じてコンタクトを行う」といったアクションが事前定義される。

 その後の顧客との対話によって提案される商品は変化するかもしれないが、「今日コンタクトすべき顧客リスト」がコールセンターのエージェント画面に自動連携される。しかも、そのリストは膨大なリストではなく、十分に絞り込まれたリストだ。Teradata Relationship Managerが「チャネルブースター」たる所以はここに由来している。

 そして、このようなキャンペーンが数十、数百にわたって同時並行で実行されるようになると、単一の顧客に対して複数のキャンペーンが案内される危険性が発生する。また、自社との付き合いが深い顧客ほどに、過剰なコンタクトをしてしまう危険性もある。

 Teradata Relationship Managerでは、これらを回避するためにキャンペーン間での優先順位付け、過剰なコンタクトを抑制するためのインターバル制御など、各キャンペーンの上位で作用する最適化ロジックも提供している。チャネルにリストが連携される前段階でこれらのロジックは適用され、ロジックに基づいて間引きされたリストが、最終的な「今日コンタクトすべき顧客リスト」としてチャネル連携される。

*1. プッシュ型キャンペーン:企業側でスケジュールを決定し、一斉案内される形式のキャンペーン
*2. 擬似プル型キャンペーン:顧客行動の変化をニーズの発生と捉え、ニーズ発生を顧客からの「引き合い」と仮定して個別に実行される形式のキャンペーン

対象顧客の設定:だれに案内するか?

 前述したEBMキャンペーンにおけるルール、「昨日の入金額 > 1.5×平均入金額/預入(=いつもの入金額よりも1.5倍以上の入金額があった顧客)」は、対象顧客を絞り込むための条件だ。これは単純な例だが、下の図のような例も考えられよう。これは冷蔵庫の買い替えを促す対象顧客の条件だ。キャンペーン管理ツールではこのような絞り込みの条件を管理し、対象顧客リストを作成する。

顧客選定の条件 顧客選定の条件

 また、案内するオファーや案内チャネルを顧客ごとに個別化させたい場合、ある属性や指標に基づいてサブリストに分割する必要が出てくる。それ以外にも予算枠などの条件からリストの足切りを行ったり、オプトアウト顧客や効果比較のために意図的にコンタクトしない顧客(コントロールグループ)を除外したりする必要もある。キャンペーン管理ツールはこれらの機能も備えている。

オファー内容の設定:何を案内するか?

 オファーとは顧客に対する提案の総称であり、商品やサービスだけでなく、付随するインセンティブ(特典や割引など)やメッセージが含まれる。キャンペーン案内時には、チャネルごとにメッセージのフォーマットが異なるため、チャネルとオファーによってメッセージの形式も異なってくる。コールセンターであればスクリプト(言葉)でメッセージが伝達されるため、対象商品のスクリプトが指定されるが、電子メールであればイメージやテキスト、誘導したいURLが指定される。

 また、オファー内容を個別化させる場合には、分割されたサブリストごとに案内オファーが設定される。例えば、下の図のような形式でサブリストとオファーを関連付ける必要がある。

対象顧客とオファーの関連付け 対象顧客とオファーの関連付け

 以上、キャンペーンを設定する上での4つの構成要素を概観してきた。「だれに対して、何を、いつ、どこで案内するか?」を事前定義することで、キャンペーンは自動化され、チャネルをブーストすることが可能となる。

 しかし、それぞれの構成要素は果たして適切だろうか? マーケティング担当者のアイデア、センスが顧客ニーズを適切に捉えていれば問題ないが、思い込みが期待外れの結果をもたらすこともある。キャンペーンの各構成要素を合理的に選択することができれば、訴求力の高い案内ができるが、そうでなければチャネルは無駄にブーストされ、空振りを繰り返すことになる。

 そこで必要になるのが「分析」であり、合理的な選択のための「指標」だ。正しい知識を析出するロジックを構築し、それに基づいて対象顧客、オファー内容、案内チャネルを選定できれば、意思決定を自動化できる。そのため、次回はその1つの手段として「データマイニング」を解説する。

賢いCRMの3原則

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第1回: 顧客リレーションシップの「維持」
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2

第2回:顧客リレーションシップの「強化」
企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第2回目の今回は、顧客リレーションシップの「強化」を取り上げる。(09/27 10:00)

2

第3回:顧客リレーションシップの「構築」
企業が消費者向けのマーケティングを推進し、顧客とのリレーションシップを拡大するために、念頭に置くべき3つの原則が存在する。当連載「賢いCRMの3原則」では、この3原則に基づいたマーケティングキャンペーンの進め方を解説する。第3回目の今回は、顧客リレーションシップの「構築」を取り上げる(10/18 10:00)


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消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。当連載「顧客データ活用のABC」では、顧客データを分析し、活用に導く枠組みを解説する。第1回目の今回は、顧客データのプロファイリング方法を取りあげる。(08/03 10:00)

2

第2回:分析でキャンペーンポイントを導き出す
消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。連載の第2回では、キャンペーン・アイデアを導き出すための分析例について解説する。(09/01 10:00)

3

第3回:マルチチャネル環境下でのデータ統合
消費低迷環境下において顧客からの支持を得るためには、自社の顧客を深く理解する能力が求められる。当連載「顧客データ活用のABC」では、顧客データを分析し、活用に導く枠組みを解説してきた。第3回目では、これを実現するためのデータ基盤を考察する。(09/16 10:00)


CRMチャネルの威力を活性化せよ

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第2回:「データマイニング」──意思決定の究極指標、「確率」の算出
連載の第2回では、意思決定の指標である「確率」を析出するメカニズム、「データマイニング」のプロセスや分析手法を取り上げる。(2008/11/04 10:00)

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第3回:拡大するデータウェアハウスの役割
これまでこの連載では、前回と前々回で、キャンペーン管理ツールとデータマイニングツールを利用した、知識の析出からキャンペーンのセットアップ、そしてチャネルへの連携に至るプロセスをさかのぼってきた。第3回では、これを下支えするデータウェアハウスの役割を解説する。(2008/11/19 10:00)


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アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年11月4日