ITとの距離感──「コンピュータのこと、俺は分からん!」伴大作の「木漏れ日」(3/3 ページ)

» 2008年10月20日 09時00分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]
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日本のCIOに疑問

 わたしは日本におけるCIOの存在に関して常に疑問を呈してきた。その理由は、日本の雇用制度、年功序列にある。日本の雇用制度はエリート=ゼネラリストという数式の下にある。エリートと目される人は1つの部署で平均2年、最長でも3年勤務して別の部署に異動になる。

 これでは専門職に太刀打ちできるはずなどない。前述のようにITはその部門に密着している。したがって、ゼネラリスト出身の社長は部門を代表する個別のITシステムはその部門自体を敵に回すのと同じことなので、手が出せないのだ。一方、CIO制度は米国のマネジメント手法そのものだ。日本では米国のCIO制度に大きな誤解がある。彼らの場合、通常はCEOがCIOを任命する。米国において、CIOはCEOの手先なのだ。日本のように定期異動で情報システムの責任者になるのとは大違いだ。CEOは自らの経営方針を会社の中で徹底するために、自らが信任するCIOを任命する。CIOは経営そのものなのだ。

 この違いを認識していても、あなたはCIO制度導入をためらうかもしれない。それは、自社のスタッフにそのような素質を持っている人がいるかどうか心配、あるいは、外部から人を招へいすることに関する不安からだろう。

 ここはあなたの度胸が試されている。自社のスタッフから選ぶということは製造部門のIT部署からなら、その人は製造部門のシステムが優れていると考えがちだからだ。当然、ほかのシステムをそれに合わせようとする。どの部署から選任してもこの傾向は多かれ少なかれ、あるだろう。

 それゆえ、外部から人材を導入しないといけないのだ。もちろん、日本の現状は、体系的な教育機関などないに等しいから、CIOを探すのも困難だし、それなりにリスクが伴う。当然、各部門からの抵抗も予想される。しかし、この段階を乗り越えなければ、次のステップには踏み込めないのだ。あなたの決断が必要なのだ。それがリーダーシップだ。自らの経営方針に忠実な人物を選び、彼にCIOとして仕事を任せよう。

 CIOを任された人もしばらくは当惑するだろう。今まで、勝手にやってきた部署の反発を抑えるのが大変だからだ。しかし、そんなことにかまっていられるほど会社に余裕はないはずだ。

 この山さえ乗り越えれば、あなたは全社を掌握するのが真近に迫っていることに気付くはすだ。次は彼の下にすべての情報処理担当者が集まってくる。そうなると、全社の情報システムの必要なデータを統合する段階に入ることができる。全社の情報を一手に握れば、誰もあなたに逆らうことなどできないはずだ。

真に重要なこと

 あなたに課せられたもっと、重要なことがある。自らがライバルと考えている企業が、どのような業務に、コンピュータを利用して、業績向上を図っているかを把握し、少なくともそれに劣らないシステム(決してコンピュータシステムだけの話ではない)を構築し、相手を圧倒することだ。

 また、同じようなシステムでも、構築や運用コストが自社より、安価に運用していれば競争優位は奪われる。新しいビジネスを開始した場合、あるいは合併などによりシステム統合の必要性が発生した場合、いかに迅速に軌道に乗せるかで競争力は大きく違ってくる。やたりに夢のようなシステムを追い求めるより、こちらの方がはるかに重要なのだ。

 経営者はこのような長期的な視点で、自社のIT部門を見るべきだ。IT部門に在籍する人たちそのものを理解する必要など全くない。それよりも、自らの力の源泉として、彼らの力を将棋の駒として、自在に使えるようになれば、これほど心強いものはないだろう。

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