「サービスストラテジ」――何をするかではなく、なぜするかを問う差のつくITIL V3理解(1/2 ページ)

今回から、ITIL V3の5冊の書籍に書かれていることを、筆者の解釈を加えながら、ゆっくりと解説する。まずは、全体の中心となるサービスストラテジからだ。

» 2008年10月21日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]

サービスマネジメントとは何か?

 まず断っておきたい。ITIL V3を単なるITIL V2の延長線上にあるものと解釈していると、本連載にかかわらずITIL V3に関して説明されている文書を読む際、違和感をおぼえるだろう。実は筆者もそうだった。なぜならITIL V2は(正確にいえば、ITIL V2の「サービスサポート」と「サービスデリバリ」は)プロセス指向を重要視していて、まるで「ITILを導入する=プロセスを導入する」であるかのように見えていたのに対し、ITIL V3は決してそうではないからである。確かにITIL V3にも、いくつかのプロセスに関する記述はある。プロセス指向であることは変わっていないが、それは決してメインではない。ITIL V2ほどプロセスが主人公然としていないのである。それよりも、各書籍で述べられている考え方、優先事項、望ましい組織構造、ITサービスへの取り組み、といった「考え方全般」を学ぶ必要がある。


ITIL V3のコア書籍とそれぞれの関係 図1:ITIL V3のコア書籍とそれぞれの関係

 ここで、ITIL V3のコア書籍の相関図をあらためて紹介する。(図1)。コア書籍は、ITのライフサイクルの形式を取っている。詳しい説明は書籍の中では見受けられないが、少なくともこの図は、サービスストラテジがライフサイクルの車軸の役割をしていると捉えるべきであろう。ストラテジ、つまり戦略がしっかりしていないとITライフサイクルをうまく回せない、と解いているのである。そのためサービスストラテジはコア書籍の1冊目として位置付けられており、日本語化もいち早く行われたのである。しっかりした車軸があれば、それを中心にデザイン(設計)、トランジション(導入)、オペレーション(運用)を行える。

 余談になるが、そのライフサイクルという車輪をクルクル回す原動力になっているのが、外側をぐるっと囲んでいる「継続的サービス改善」である。外側の赤い矢印が何を表すのか、ということは書籍の中では触れられていないが、おそらくそういうことを言いたいのだろう。ただ、筆者がこの書籍に関して触れる頃には、もう2008年が暮れているかもしれない……。

「何をすべきか」ではなく「なぜすべきか」を重視

 前回の記事でも述べたが、ITIL書籍の中に書かれている「サービスストラテジ」という書籍の説明を引用しておこう。

『サービスストラテジ』は、組織の能力としてだけではなく、*戦略的資産*としてサービスマネジメントをいかに設計し、開発し、導入するかについての手引きを提供する。

(中略)

ITILのこの書籍は、何かを行うときに「どのように」を考える前に、まずは「なぜ」を考えるよう読者に促している。この「なぜ」という質問への答えが顧客の事業により近いのである。

 「何を」「どのように」という部分よりも、「なぜ」に強くフォーカスしている本書は、すぐに最適解を求めようとする人々には受け入れられにくいかもしれない。「こうすれば良い」ということが、ほとんど書かれていないからである。これは仕方ない部分であろう。

 ITILは「やり方」というよりは「考え方」を重視する。それはITを「戦略的資産」として捉える中心的な考え方を解いている本書において、もっとも顕著である。例えるならば「ナムアミダブツとかアーメンとかを唱えると救われますよ」ということを解いているのではなく、なぜそれを唱えると救われるのか、という部分の説明に大部分を割いているのである。もうちょっと具体的に「唱えてみましょう」という内容は2冊目以降の書籍で解説される。筆者の私見だが、どのような宗教でも、ただ唱えるだけでは救われないのではないか。なぜそれを唱える必要があるのか、唱えることにどういう意味があるのか、何を期待するのか、ということがはっきり自覚しないと、本当にその宗教を「信じた」ことにならないのではないだろうか。

 ここで確認しておきたいのは、ITILを正しく理解するためには、ITILがしつこく述べている(なおかつITILの根幹でもある)「サービスマネジメント」という概念を正しく理解することが重要であるということだ。「サービスマネジメントとは文字通り、サービスをマネジメントすることである」――これでは説明になっていない。ではそもそも、サービスとは何であろうか。

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