桜木花道は今も燃えているか――「スラムダンク」にみる好敵手の効用マネジメントの真髄(2/2 ページ)

» 2008年10月23日 09時53分 公開
[城戸誠,ITmedia]
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あきらめたらそこでゲーム終了

 誰しも特定の相手を打ち負かす、もしくは乗り越えるために鍛錬した記憶は一度や二度ではあるまい。自己の才能や力量が相手に劣っているかもしれないという漠とした恐怖、それは即自己否定につながりかねない。大げさに言えば種としての優位性をかけたその勝負の過程において、実力以上の力を発揮した時に、その思考の発露、一挙手一投足に筋肉の記憶が、種としての人類を成長させているのかもしれない。馬鹿馬鹿しいほどのひたむきな純粋さは時に可能性の限界を超える。

 考えてみればそれこそ「競争原理」そのものであり、それを支えるコンプレックスの集積が人類の歴史そのものではないだろうか。

 ビジネスシーンにおいては、1つの組織の中で個人戦もあれば、組織対組織という構造もある。VHS対ベータ、ブルーレイ対HDDVDといった商品レベルでの戦い、メルセデスベンツ対BMW、など会社対会社の競争も枚挙にいとまがない。そしてその戦いは文字通り生き残りをかけた戦いである。

 アップル社のスティーブ・ジョブズはその語録の中で"I'ts better to be a pirate than to join the Navy"という言葉を使った。Navyに入るより海賊になったほうがまし、というわけだ。これはMicrosoft社をNavyになぞらえて発した言葉と言われるが、その切磋琢磨の結果、よりすぐれた製品・サービスが世に出ることになる。

 ちなみにRivalの語源は「川を争っているもの」「川を共同で使うもの」という2通りの意味合いが含まれているそうだ。事実、ライバルという言葉の響きには、アドレナリンとドーパミンの源泉といった情熱的な色合いと、どこか懐かしく切ない香りが漂う。

 人間は本来弱い生き物で、自分に都合の良い理由を見つけては怠ける性をもつ。だが、自分が休んでいる間に、ライバルが力をつけているかもしれない恐怖、そしてそれを凌駕する己の姿を夢見て、ともすれば弱くなりがちな心に鞭を打つ。ライバルの存在感はむしろ己の心の中にこそあるのだ。

 同時に、互いに骨がきしむほど拳をぶつけあったボクサーがそうであるように、戦いの後は最良の友となる可能性が高い。相手に対する関心の度合いが高い分、内部に大きな位置を占め、敵対的だからこそ相手を求めるアンビバレントな感情が内包される。

 物語の中でこの2人を別視点で眺めている存在がある。それは監督の安西先生という人物である。以前は大学のバスケ部コーチとして白髪鬼と恐れられていたが、ある事件を境に大学を辞し、湘北高校バスケ部顧問というかたちで、まさに絵に描いたように仏のコーチに変貌をとげた。

 彼自身の葛藤は一言で言えば、桜木と流川というとてつもない2つの才能を同時に見出してしまった衝撃、である。彼自身のトラウマである過去に若き才能を潰してしまった苦い記憶が、2人を見る目に少なからず影を落とす。

 同様のシチュエーションにおいては競合のシーソーをうまくバランスさせ、うまく高みに両者を引っ張りあげられるかが、マネジメントの課題そのものかもしれない。「あきらめたらそこで試合終了だよ」とさらりと言ってのける裏に彼の人生そのものが透けて見える。

 話は変わるが今年開かれたくだんの「最後の絵画展」に訪れた友人が、来場している浦沢直樹氏(『20世紀少年』作者・漫画家)を見かけた。彼がどんな目で飾られたその絵を見ていたのかもちろん知る由もないが、彼もまた同業の地平に異才を見るにつけ、アンビバレントな心持であったに違いない。

 最後にあなたにいま一度問う。あなたのライバルは誰ですか。

 あなたの闘争心に火をつける人は周りにいますか。

 決して人生という戦いを下りてしまうことのないように。

 あきらめたらそこでゲーム終了ですよ。

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