20年の産学連携が世界の社会基盤創造をリード

時間や場所の制限を受けずに、誰もがインターネットを介して情報を手に入れられるようになった。新たな社会基盤として機能しつつある情報通信ネットワークを率先して展開してきたNTTコミュニケーションズの海野副社長とSFCの村井教授に、産学連携の実績や今後の展望を語ってもらった。

» 2008年11月11日 10時00分 公開
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 インターネット網や通信インフラの整備、PCの普及などに伴い、ユーザーは時間や場所の制限を受けずに、あらゆる情報をネットワーク経由で得られるようになってきた。情報通信ネットワークが新たな社会基盤として機能するということが、現実味を帯び始めている。

 情報通信ネットワークを20年にわたり共同で研究してきたのが、NTTコミュニケーションズと慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)だ。11月21日(金)、22日(土)には、SFC研究所が主催する「慶應義塾大学SFC Open Reseach Forum 2008」(ORF2008)が開催され、情報通信ネットワークに関する最先端の研究発表や講演が行われる。

 情報通信ネットワークのダイナミックな進展を先導してきたキーマンは、その現状と将来をどう見ているのか。NTTコミュニケーションズで法人事業本部長を務める海野忍代表取締役副社長と慶應義塾で常任理事を務める村井純教授に、これまで共同で展開してきた産学連携や人材交流について聞いた。

20年の実績が紡ぎ上げる産学連携の結晶

ITmedia NTTコミュニケーションズと慶應義塾大学の共同研究は、インターネットの黎明期の時代から続いています。その中で、情報通信ネットワークの課題に対してどのような研究を重ねてきたのでしょうか。

NTTコミュニケーションズの海野忍副社長 NTTコミュニケーションズの海野忍副社長

村井 産学連携でインターネットの技術を研究してきて20年が経ちました。インターネットが本格的に普及したのは1995年からです。社会に対する働きかけや技術の開発、インターネット網の整備など、国内における情報基盤の発展を担ってきました。

海野 NTTコミュニケーションズは、IPプロトコルの研究をはじめとして、情報通信技術とインターネットの橋渡しをしてきました。産業側が「優れた技術が開発できた。これは良い」といくら提唱しても、世間からはなかなか認めてもらえません。研究機関である慶應義塾大学と組むことで、技術を一般に広めることができました。

村井 情報通信ネットワークの分野では、開発した技術がいかに優れているかを数字で示すだけではなく、その技術が人間や社会にとってどれだけいいものであるかを検証することが必要となります。いい製品を作っても受け入れてもらえないことは少なくありません。まずはプロトタイプをたくさんの人に使ってもらい、実質的な評価をしなければいけません。研究とビジネスのどちらにも偏らない評価ができるため、産学連携の果たす役割は大きいです。

海野 産学連携は一時期、お金の流れが不明瞭な事例もありました。しかし、研究開発と事業、お互いの役割をうまく分担できていたと思いますし、共通の基礎研究ができることも強みでした。

村井 患者と向かい合いながら診断や治療を行う「臨床医学」という分野があります。治療を受ける患者側の意見を取り入れることは、情報通信ネットワークの研究に通じています。つまり、情報通信ネットワークを使う側がきちんと評価をして、次の研究や事業に生かそうとしなければ、研究は発展しないのです。人がどのように情報通信ネットワークを使って知識や情報を共有するかという実態を知らなければならないのです。

海野 そうした検証はなかなかできません。大学こそが研究の場にふさわしいでしょう。

村井 日本はネットワークのインフラが充実していることに加え、研究者や技術者、そして製品を使う人の質がとても高い。携帯電話や携帯ゲーム機などの新製品が発売されれば、みんなそれを即座に使いこなします。

 こうした下地があった上で産学が集い、それぞれの事業や研究ができる環境を20年にもわたって維持してきました。こうした連携は日本特有であり、世界中からもうらやましがられています。産学連携の研究基盤を構築するという責任は、日本が果たさなければいけません。日本は「インフラの先端性」と「人の使いこなし力」がそろった、とてもエキサイティングな研究の場なのですから。

産学連携を実現した人材交流

ITmedia 大学で最先端の研究をしていたエンジニアがNTTグループに行き、OCNやグローバルIPネットワークの運用管理の中心を担う。逆にNTTグループから大学に戻り、ビジネス動向を理解した研究者になる、といった産学連携に端を発した人材交流も盛んですね。

image 慶應義塾大学の村井純教授

村井 SFCでは100以上の企業と共同研究を行うなど、企業・大学間での人材交流の機会は多いです。NTTグループとの包括的な研究やインターンシップの実施など、学生が一時的に体験入社するような仕組みも出来ています。

海野 まず学生にインターンシップなどを利用して企業にきてもらい、卒業生と企業で一緒に研究する。インタラクティブな交流によって意見をぶつけ合う。これが新しい研究を導くのです。

村井 NTTで研究開発をしていた経験のある人が慶應義塾大学で教員になる。この場合、ずっと大学で研究をしてきた生え抜きとは違い、ビジネスの視点を研究に取り入れることが可能になります。講義を受ける学生には、その多様性が魅力に映るでしょう。

ITmedia ORF2008でもそうした一端を垣間見ることができるのでしょうか。

村井 慶應義塾大学SFC研究所は、神奈川県の湘南藤沢キャンパスにあります。そのため、普段は研究活動を広く見てもらうことができません。ORFは東京・六本木ヒルズで行われるなど、物理的な距離を超えてさまざまな人に研究の成果を披露できます。

 ORF2008では、学生と教員が2日間にわたって研究活動を公開します。今回は、登壇者や研究者と来場者が自由に話せるオープンスペースも用意しています。来場者は、実際に研究を見て感じたことをフィードバックしたり、アイデアを伝えたりすることができます。そこから新たな研究活動を行うといった実質的な場にすることが狙いです。

IPTV、IPv6……情報通信ネットワークの主役へ

ITmedia 情報通信ネットワークを考える上で「IPTV」は次の大きなトピックと考えられていますが、いかがでしょうか。

村井 インターネットの発展に伴い、PCにスポットライトが当たりました。そして次の主役は、携帯電話を代表とした無線分野、そしてインターネットにつながるテレビです。

 IPTVという技術は、テレビのクオリティを持つコンテンツをインターネット経由で提供するものです。コピーしても劣化しないなど、コンテンツの質も高い。ネットワーク環境の整備が進んでいる日本では、世界に先駆けて優れたサービスが提供できると確信しています。

 ただし課題もあります。ストリーミングは、映像や音声の途切れなどが起こります。普段からテレビの映像に慣れているお茶の間の人たちに受け入れてもらうには、インフラを整えることが大事になります。配信の仕組みもしっかりと整えないといけません。

海野 地上波、BS放送、CS放送と広がり、今はIPTVという最先端の議論をしています。音楽の流通はすでに大きく変わりました。映像は今後どのような提供形態になるのでしょうか。テレビのデジタル化に伴いこうした議論ができるのは、とても幸せなことだと思います。

ITmedia 配信するコンテンツの質を高めることが重要になってきます。そのひとつの手段として、「地上デジタル放送の再送信」が着目されています。

村井 地上デジタルテレビジョン放送(地デジ)は重要なコンテンツのひとつになるでしょう。日本の子どもが観るコンテンツだからです。未来を担う子どもたちが観る番組の質をおろそかにできません。

 地上波アナログテレビ放送が終了する2011年を機に、テレビがどういう形に生まれ変わり、情報通信ネットワークとかかわりあうのでしょうか。ここは間違えたくないと考えています。活発に議論を重ねている国は日本以外にありません。

海野 しかし、地デジの再送信のように一般の方からのニーズが高いキラーコンテンツになればなるほど、権利関係が複雑で簡単には実現できなくなりますが、これを解決する糸口を村井先生が作ってくださいました。

ITmedia IPv4のアドレス枯渇問題については、今後どのような議論が進んでいくのでしょうか。

村井 IPv4のアドレスが枯渇したからといって、ネットワークが止まるわけではありません。そしてIPv4が足りなくなった場合の方法論もいくつか議論されています。結論としては、心配することはないでしょう。

海野 ICTを推進するわれわれの立場から見ると、IPv4のアドレス枯渇は課題の1つです。みなさんが使っているソフトウェアの中にはIPv4をそのままプログラミングに埋め込んで書いているものもあり、これをIPv6に移行するのは簡単ではありません。移行をどう支援するかを常々考えています。

村井 日本は、IPv6が実際に使われていくための情報通信ネットワークを持っています。海野さんがおっしゃったように、IPv4とIPv6の共存をどのように図っていくかについて、日本は世界に先駆けて見本を示すことが求められてきます。

対談の様子 対談の様子

人間の無限の想像力を支える情報通信ネットワークへ

ITmedia 情報通信ネットワークは今後どのような役割を担うのでしょうか。

海野 かつては一部の人しか使えなかった電話ですが、今や誰もが使えるようになりました。情報通信ネットワークもこのように当たり前になっていくことが大事だと考えます。みなさんがその存在を意識することなく使えるようなインフラにすることが、われわれの使命です。ビジネス上の付加価値を認めてもらい、相応の対価をいただくことになります。実はこれが一番難しいのですが。

村井 情報通信ネットワークは社会基盤としての役割があります。人のライフスタイルや社会を変える基盤の構築を担っています。情報通信ネットワークは、無限の想像力と力を持つ人を支え、人が営む社会活動や産業を支えるものであるべきだと考えています。こうした技術の創造は、大学側の責任でもあります。

 国内携帯電話市場のような産業のガラパゴス化や温暖化による二酸化炭素の排出量削減など、さまざまな問題に向き合っているのが日本ですが、今が転機ではないでしょうか。日本が展開する情報通信ネットワークは、グローバルの基盤を担うものです。グローバル規模で活躍できる次世代の人材を育て、社会や産業界と一緒に今日本が直面している課題に挑戦していくことが、日本の取るべき態度です。非常に面白い時代だと思いますね。

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提供:NTTコミュニケーションズ株式会社、慶應義塾大学SFC研究所
企画:アイティメディア営業本部/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2008年12月5日