金融危機とIT経営(2)伴大作の木漏れ日(2/3 ページ)

» 2008年11月17日 15時07分 公開
[伴大作(ICTジャーナリスト),ITmedia]

 消費者金融2位のプロミスも奇跡の会社といえる。同社はわたしが取材開始した時点で業界4位に過ぎなかった。同社はIT支出に慎重な企業との印象を受けた。どのシステムであってもリーダー自らが納得するまで導入しない。たとえライバルに若干立ち上げが遅れても、完全に把握した上で、一気に設備を進める方針を貫いた。その結果、同社のIT予算はライバル企業の60%程度で納まっている。プロミスの例は経営陣がIT部門のリーダーを全面的に信頼し、また、リーダーもその期待に応えようと必死に頑張った例の最たるものだ。

 リーディングカンパニーという視点でもう一社上げるとするなら、テイジンだ。同社とのつきあいはわたしがアメリカの調査会社に在籍し、ユーザー調査の重要性を認識したころまで遡る。

 当時その会社は年に一度、クライアント企業に限定招待し、セミナーを開催していたが、そこに子会社の社長がお見えになった。当時テイジンシステムテクノははやりだしたオープン系にも力を入れだした頃で、それがわたしの専門だったこともあり、親交を深めていった。その頃、繊維は東レが断トツの一位で、テイジンは万年二位という地位に甘んじていたというのが一般の認識であり、わたしも同様の認識であった。しかし、変化はリアルタイムで同社の中で起こっていた。

 その後、テイジンの社長は必ずテイジンシステムテクノへの出向とそこで一定の成果を挙げることが不文律となり、同社の業績は急速に向上していった。やがて、同社はERPコンソーシアムを自らが中心となって立ち上げたり、ICT業界の中で中心として活躍するようになった。テイジンの場合、ICTは一種の血であり肉であるケースなのかもしれない。

 わたしの取材経験を通じ、成功している3つの企業のIT部門と経営者の関係を記した。これ以外にも、優れた経営者と優秀なITリーダーが共同で造り上げた事例は幾つもある。共通するのは、経営側、IT部門側双方が、お互いの甘えを廃し、成功への信念を共有し、そのために自社のITをどのように革新していくかについてとことんまで議論し、結論を出している点である。

 その上で、経営側はIT部門のリーダーを信頼し、ITに関するすべての決定をその人に任せる。任せられた側も、定められたゴールに向かってひたすら走りぬく決意を持ち、経済情勢やライバルの動向などで修正を余儀なくされた場合、直ちに経営側と協議し、即座に対応する決断力と柔軟性を持ち合わせなければならないのは当然だ。

 優秀な経営者はこのような情報システムの組織を作り上げることができるかどうかで優劣を判断されるべきであり、IT部門に優秀な人材を配置するだけでは必要十分条件とはならない。つまり、経営とITは一体であって、決して向き合う関係ではなく、両社が将来に向かって同じ方向を向いているのが理想的な姿だということである。

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