カブドットコムはネット証券の窓口機能をトラックに積んだ営業所を作り、東京の街を駆け抜けている。ネット上で顧客を待つのではなく直接出向く――ネット証券のビジネスモデルの枠を超えた取り組みで、これまでに開拓できなかった顧客に働きかける。
インターネット上で株式を売買できるネット証券が広がっている。だが操作が難しく、どのように申し込みをすればいいか分からないなど、株式を売買するまでに乗りこえなければならない壁は意外と高い。
こうした中、トラックで顧客に出向き、車内で口座開設や受発注のアドバイスをするという離れ業をやってのけた企業がある。三菱東京UFJ銀行傘下でネット証券を手掛けるカブドットコム証券だ。
同社は株価の動きを確認できるディスプレイや、顧客とのやり取りができる環境をトラック内に構築した「移動営業所」を10月10日に開設した。東京の街を走り、顧客との対面でのやり取りの強化に努めている。
インターネット上での取引におさまっていたネット証券のビジネスモデルとは一線を画す移動営業所には、詳細な要望をつかむことで新たな顧客を開拓するというカブドットコムの狙いがあった――。
「インターネット上でのやり取りにプラスワンの要素が欲しかった」。こう話すのは、カブドットコム証券で営業統括部部長を務める中島俊一常務執行役。移動営業所を考案した立役者だ。
「50、60代の新規口座の開設も増えている」(中島氏)など、ネット証券のすそ野は広がりを見せる。それに伴い、カブドットコムでは証券をどれだけスムーズに売買できるかといった機能を重視し、システム開発に投資をしてきた。
従来のネット証券では、コールセンターや電子メール、電話を通じて顧客の要望を吸い上げるのが一般的だ。だが、「目と目を合わせて話をすることで、心を開いたやり取りができ、顧客の詳細な声をつかめるのではないかと感じていた」(中島氏)。インターネットをあまり使わない人にネット証券を使ってもらいたいという思いもあった。
従来型の証券会社の多くは、営業拠点としての役割を果たす支社を複数持つ。これにならって、営業拠点をかまえることも考えた。だが、顧客ごとに人材を当てマンパワーで利益を上げるモデルではないネット証券にとって、「拠点で顧客を待っているだけでは十分ではない」(中島氏)。設備の維持費用を考えても、拠点の新設は現実的ではなかった。
「それならわれわれが顧客のいる所まで足を運べばいい」。トラックに証券売買ができる環境を整えた移動型の営業所を作り、直接顧客に出向くというコンセプトが見えてきた。ネット証券が得意とするオンラインでの顧客とのやり取りから一歩踏み出し、従来のビジネスモデルをくつがえす逆転の発想を取った。
移動営業所は、4トントラックにノートPCや株価の動きを確認できる大型ディスプレイを搭載し、あらゆる証券の窓口業務に対応できるようになっている。この土台を支えるためには、停車場所によらずネットワークに接続でき、顧客情報を守るためのセキュリティを確保できる通信環境が必要だった。
株価情報をリアルタイムに表示するためにカブドットコムが採用したのは、インターネットイニシアティブの通信システムだ。3G(第3世代携帯電話)による通信機能を備えたルータに携帯型のデータ端末を差し込むと、最大7.2Mbpsの通信環境を構築できる。
ネットワークの設定情報はルータが集中管理し、電源を切るとルータ本体には情報が残らない。「不正変更やルータの盗難による情報流出の心配はない」とシステム統括部の谷口有近シニアマネジャーは自信を見せる。
持ち運びができるルータを採用したことで、電波の届かない場所では、通信用のケーブルをつないで電波の届く場所にルータを移動すればいい。「衛星通信も考えたが、コストが割高で移動環境に適さないことから、採用を見送った」(谷口氏)
顧客情報などを扱うセンター側の接続にはシスコシステムズのルータを使っている。万が一の故障に備えてマルチベンダー対応にすることで、本社と同等のセキュリティ環境を構築した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.