ITを道具ではなく、レストランのような「サービス」として考えてみた差のつくITIL V3理解(1/3 ページ)

例えば「イス」と「レストラン」の違いは何か? それは全社が24時間365日の稼働を求められる「道具」であるのに対し、後者は深夜および休日は閉店する「サービス」であることだ。この違いを理解すると、ITサービスを理解する近道となる。

» 2008年12月05日 08時00分 公開
[谷誠之,ITmedia]

道具としてのITという考え方は、もう古い

 ITIL V3における「サービス・ストラテジ」の書籍は、抽象的で難解であるように感じる。それは「ITサービスを成功させるためにはこうすればいいですよ」ということが、ほとんど書かれていないからである。しかし「サービス・ストラテジ」はこの後に続く「サービスデザイン(ITサービスの設計)」、「サービストランジション(ITサービスの導入)」、「サービスオペレーション(ITサービスの運用)」、そして「継続的サービス改善(そのものズバリだ)」を間違いなく実施するための土台である。「そもそも、ITサービスとは何なのか」という部分に言及して書かれている。

 「サービスとは何か」――これは、会社の経営者や組織の運営者にとってさえ重要な問題である。利益やコスト削減のみを追及し、事業顧客(いわゆるお客様)に対するサービスの基本を忘れ、それが露呈した段階で衰退していった会社や組織がどれほど多いことか。

 ITが、企業活動において「なくてはならない存在」になって、かれこれ20年ほどが経過した。実際には、ビジネスにコンピュータが使われるようになった歴史はもっと長いが、大企業がホストコンピュータやオフコンと呼ばれるシステムを本格的に導入し始めたのが1980年頃、中堅企業がWindowsシステムを中心としたクライアント/サーバシステムを導入し始めたのが1990年後半、と考えればそんなものだろう。

 しかしこの20年間、IT資産(ハードウェアやソフトウェアなど)はビジネスにおける「道具」と思われてきた。机やイス、ペンやノート、そろばんや電卓、電話やFAXなどと同じ「ビジネスに必要な道具」だという扱いを受けてきたのである。そのためITシステムの開発は「ビジネスに便利な道具を開発する」という考え方の元に行われてきたし、導入したITシステムの運用も「ビジネスに便利な道具の使い勝手をメンテナンスする」というアプローチで進められてきた。その考え方は、おそらく歴史の途中までは正しかったのだろう。筆者は、インターネットが普及し、様々なシステムが相互に接続されるのが当たり前になった時代、1990年代末から21世紀に入った頃までは正しかったのではないかと考えている。

 しかし現在、その考え方は正しくないのだ。道具は使えて当たり前である。壊れて座れなくなったイスは即座に修理することになるし、書けなくなったペンは捨てられる運命にある。道具である以上、そこに存在するからには、いつでも使えなければならない。「毎月20日の、午前2時から午前4時までは座れないイス」なんてあり得ないのだ。

 IT資産を道具だと捉えてしまうと、「毎月20日の、午前2時から午前4時までデータベースにアクセスできない」という現象が理解できない。稼働率99.99%、つまり1年のうち8時間は使えないかもしれませんよ、という事態を了承することができなくなる。でも現実はそうである。IT資産は、道具ではないのだ。

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