勝海舟とプロジェクト型人材IT Oasis(2/2 ページ)

» 2008年12月09日 07時00分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
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再びプロジェクト型人材が覚醒する

 では、自治体には最初から新しいアイデアに基づいたプロジェクトがなかったのかといえば、それは違う。個別の地域特性に対応しなければならない事業、例えば社会インフラなどでは、新しい取り組みが積極的に行われていた。

 筆者は30年ほど前に自治体の下水道事業に関わっていたことがある。当時、上水道の普及率こそほぼ100%に達していたが、下水道の普及はまだまだであった。10大都市で最低のところは普及率が10%台という状況で、繁華街にあるデパートのトイレが実は「くみ取り式」といった所もあった。

 そこで自治体は積極的に下水道事業に資金を投下し、下水管の敷設や下水処理場の建設などを進めていった。

 「お役所仕事」と言えば融通が利かない杓子定規な仕事ぶりの代名詞だが、当時の下水処理事業に携わる部署には活気があふれていた。次々と新しいプロジェクトが生まれ、実行に移されていった。地域によっても異なるが進取の気概に富む自治体では、新しいことを考え、実行し、成功したものが評価されるという加点評価方式が採用されていた。国や地域全体が大きく変化していこうとするときには、さまざまな制約はあるにせよ、役所の仕事も躍動的だったわけだ。

 今はどうか。都市部の下水道普及率はほぼ100%に達している。下水道事業は開発、建設など新規事業を展開するプロジェクトの時代から、下水管の維持管理、下水処理場の保守といったプロセスの時代に入っている。ある自治体では下水道局は役割を終え、1つの部に格下げになった。プロダクト・ライフサイクルで言えば成長期が終わり、成熟期に入っているのである。

 こうした状況は何も下水道に限らない。自治体の市民に対する義務的サービス事業の多くは成熟期に入っている。前例を踏襲し、先輩と同じ仕事をして現状を維持していくのが成熟期の間違いのない仕事のやり方である。仕事のやり方が決まっているので、業績評価も減点法になりやすい。

 こうした規則やルールにのっとって定型的に仕事をこなすというプロセス型の環境では、新しい提案や企画はなかなか生まれて来ない。

 ITはソリューションの導入と同時に業務改革が必然となるので、プロセス優位の体制では提案しにくいのである。つまり、基幹業務は国の下請けに甘んじなければならず、業務が定型化したのに伴い組織も硬直化してしまったという状況である。

 こうした状況では職員の評価も減点法になりやすい。何か新しいことを提案して失敗すると減点になる。それくらいなら前任者にならって余計な事をしない、不作為を決め込むのが得策だとなりやすい。職員が昇進試験を受けないのは職位が上がっても責任が重くなるだけで、職位に見合った面白いやりがいのある仕事ができない。そういった雰囲気がまん延しているのかもしれない。

 こうしたことは民間企業でももちろん起こっている。成熟企業では定型的な業務が多くなりプロセス型の人材が多く必要となる。相対的にプロジェクト型の人材は居場所がなくなる。しかしITはプロジェクト型の人材を必要とするのである。

 成熟した事業だけを動かす組織は人材のカラーも単色に染めてしまう。今、企業も自治体も、その組織全体が変わらなければならない時期に入っていると思うが、組織変革にはプロジェクト型の人材が欠かせない。しかし気が付いてみたらITのことが分かる人間がいない、プロジェクトができる人間がいない、面白い仕事をしたがる人間がいないといった状況に陥っているように見える。

 平成の世に勝海舟は現れるのだろうか。

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プロフィール

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、 CIO育成支援アドバイザー、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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