グリーンITをとらえる2つの視点Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2008年12月15日 08時29分 公開
[松岡功ITmedia]
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環境への貢献で試されるITの真価

 そうした消費電力の削減を含めて、グリーンITへの取り組みには2つの視点がある。

 1つは「Green of IT」。IT機器そのものの消費電力削減や資源のリサイクルによって、エネルギー消費を抑えようという視点だ。

 もう1つは「Green by IT」。ITの利点を最大限に活用し、人やモノの移動を減らしたり、業務効率を高めたりすることで、社会全体の環境負荷を低減しようという視点である。

 Green of ITの典型的な例に、膨大な電力を消費するデータセンターがある。データセンターではIT機器の省電力化や最適配置にとどまらず、空調設備や電力設備の能力・効率の最大化、ビル設備・環境の管理の最適化、照明エネルギーや消化設備による環境への影響の最小化などを図らなければならない。

 また、コンピューティング資源の有効活用という観点では、サーバなどの仮想化技術も効果的だ。仮想化したサーバ設備は、省電力や省スペース、コストや廃棄物の削減につながるからである。

 一方、Green by ITでわかりやすい例といえば、テレビ会議システムがあげられる。テレビ会議システムを利用すれば、出張に伴う人の移動や交通機関の利用が減り、これまで必要だったエネルギーを大幅に抑えることができる。また、ネットワークを利用して自宅などで仕事をする「テレワーク」も大きな効果が期待できる。

 総務省の調査研究報告では、ユビキタス社会の実現によって削減できる二酸化炭素(CO2)の排出量は2650万トンで、そのうち410万トンはテレワークや高度道路交通システム(ITS)によるものだとしている。

 ちなみに経産省は、Green by ITを推進することで、2025年までに社会全体の消費電力量を4900億kWh削減できるという試算結果も発表している。これは先ほど紹介したGreen of ITの削減効果の5倍近くにあたる数値で、両者を合わせると国内の全エネルギー消費量の約1割にもなる。

 つまり、グリーンITは決してIT業界だけの課題ではなく、社会全体の持続可能性を高めていくための、人類共通の課題なのである。

 グリーンITを推進することは、環境対策にとどまらず、企業や行政のコスト負担軽減や社員・職員のワークスタイル変革、地域活性化など、さまざまなメリットにもつながっていく。こうしたグリーンITがもたらす価値をしっかりと認識し、企業や行政、地域社会が一体となって取り組んでいくことが求められているのである。

 あらためて、エコプロダクツ2008で筆者がグリーンITに関して気になった点に話を戻そう。それは、Green of ITにおける展示・実演は数多く見られたものの、Green by ITへの取り組みや期待される効果が、いまひとつ伝わってこなかったことだ。

 もちろん、同展自体は「環境総合展」なので、グリーンITはテーマの1つにしか過ぎないが、逆にいうと、総合展だからこそIT業界としてはGreen by ITの具体例やその経済効果をもっと訴求していくべきだろう。

 少々産業構造としての理念的な話になるが、金融が全産業の土台になっていると捉えれば、ITも金融と同様の役割を担うと、筆者は確信している。Green by ITは、まさしくその役割を果たすための取り組みとなる。それは取りも直さず、環境へ貢献するITの真価が試されていることにほかならないといえるだろう。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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