コラム
» 2008年12月17日 13時36分 UPDATE

サバイバル方程式:金融不安から噴き出すSOXへの疑念

厳しい経営環境で問われるのは「経営の透明性」だ。SOX対応に携わった人々は新しい摩擦を経験することになるかもしれない。

[平安彦,ITmedia]

企業の突然死の背景を考える

 SOXの実務に携わる方々は今回の金融市場の混乱と無関係に作業を進められているでしょうか。市場の暴落が起こったとしてもそれは結果でしかないため、表向きはSOXの手続きには何の変更もないでしょう。そこで「無関係である」としたいところですが、実際はそうでもないようです。

 そもそもSOXで対象となっている業務は決算の主要な勘定を中心に決められ、これに従って各種SOXに必要な文書化を皆さん行われたかと思います。営業から生産、請求や回収から決算までの広い企業活動を文書化されていったわけです。

 しかし当初から疑問として挙がっていた声があったことを覚えている方も多いのではないでしょうか。つまりSOX制定のきっかけとなったエンロンで行われていたような不正にあたる事象、こうした行為がSOXの取り組みをもってして防げるのか、牽制として実効能力があるのか、監査において発見を容易にできるのかという疑問です。

 たいていの企業で文書化されている業務は、日常的に一般社員が行い、その上長である課長や部長が承認を行い、結果役員がチェック行為を行うという大量トランザクション業務が大半です。

 例えば製造業では原材料の発注や、注文の受注という行為が売り上げや支払いの大半を形成しています。しかしこれらの業務はSOX制定の以前からある程度のチェックや牽制機能が導入されていた場合がほとんどです。SOXの監査の中で機能強化した方が良いのではないかと評価されることもありますが、ケースとしては少ないでしょう。今までにも個人に権限が偏っていると不正を起こす可能性が高まるために、それなりに考えられてきた不正排除の仕組みが存在することが多いのです。

 ではエンロンでは日常的な取引行為において何か不正が存在し、監査のチェック機能の網をかいくぐり、いきなり経営危機を迎えたのでしょうか。そうではないはずです。

今はネガティブに考えない

 企業では日常的業務で日々売り上げが積み上げられ、原価も積み上がってきます。しかしこれとは異なる流れで決算財務は作成されます。大抵は四半期でそこまでの経営の状況を確認し決算を行いますが、財務会計では必ずしも現実の結果のみを記載するのではなく、その時点での資産の評価などを自社の基準で行い、この見積りの結果も反映します。架空取引などの犯罪的行為以外に企業が突然死するのはこういった見積りの甘さ、もしくは意図的な見積りの運用に原因があり、見積り業務こそが危険度の高い領域であることは周知の事実でした。

 こういったリスクは一般社員が日常業務をいくら正しく行っていても排除することはできません。またリスクをどう評価するのかはこれ自体が経営の実態であることも事実です。金融市場だけでなく、原料相場や労働市場の先行きをどう見るかによって投資の額もタイミングも変わってくるでしょう。

 そう考えれば一律の基準で決めることは難しいし、成長の可能性を摘み取ることにもなりかねません。あえてリスクを取りにいくことも経営だからです。

 今回の金融不安による「時価評価」の凍結、もしくは基準緩和については難しい問題ではあります。確かに今の不透明な値動きの中で最大のリスクを見積もれば資産が大きく毀損する企業も出てくるでしょう。ですからこの一時的手当てのことを完全に「悪いこと」とは思いません。

 しかし一方で現場の業務の文書化とテストに多大な時間と費用を費やしたSOXの関係者としては複雑な思いなのではないでしょうか。現場の一般社員の日常業務について詳細に外部に説明できるようにしたとしても、経営者層が不正をしようと考えればこれを防ぐことは現場担当者には不可能でしょう。現実的には監査人もSOXのテスト結果を横目で見ながらも、見積り業務を重点的にチェックする監査を行うでしょう。この時にチェックするのは業務遂行プロセスの確かさではなく、あくまで見積り業務を含む全業務における結果をチェックすることとなり、同じ監査でも性格は大きく異なります。そもそも各業務のプロセスを文書化し、正しく実施できていることを証明できたとしても、一番最後の決算と間違いなくつながっていることが証明できないのであれば、「SOXって意味があったのか?」という疑念さえ生みかねませんが、個人的には今のところそこまでネガティブに考えず、前向きに対応することに意味があると考えています。

 SOXも年を重ねるごとに徐々に手法も成熟していくと思いますが、過渡期にある現在においてはこのようなある程度の摩擦も致し方ないのかも知れません。

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プロフィール

たいら・やすひこ 大手コンサルティング会社、ITベンダー勤務を経て、独立。米国および日本企業のSOX対応プロジェクトに参画。現在、ITコンサルティング会社「ビジネスアクセル」代表。


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