年末サプライズの深層--日本IBM社長交代Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年01月05日 08時46分 公開
[松岡功ITmedia]
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ピリッと来る場面もあった質疑応答

 その上で橋本氏は、新社長として注力するポイントを3つ挙げた。

 1つ目は「お客様中心」。これは橋本氏の信念にも通じるポイントだが、こんなコメントも加えた。「最近、お客様やパートナー企業から、IBMの営業は若干内向きだという声をよく聞く。これを真摯に受け止めて、お客様のもとに伺う時間をもっと増やし、関係を深めていかなければいけない」

 2つ目は「自由かっ達」。「わくわくいきいき」というシンプルな言葉が好きだという橋本氏。社員がそう働くことができ、オープンなコミュニケーションのもとで現場の声を反映できる経営を目指していきたいという。

 3つ目は「グローバル」。ここで橋本氏は、日本IBMの役割についてこう語った。「IBMの強みは、グローバルで持つリソースや資産にある。その中で日本IBMの役割は、それを単に“翻訳”するだけでなく、日本市場に適した形にインテグレートして提供することにある。そうしたグローバルの活用の仕方について、再度徹底していきたい」

 気負うことなく所信を丁寧に話す橋本氏、そして「自己採点はしないが、落第ではないと思う」と清々しい表情で語る大歳氏。だが、質疑応答では両者がピリッと来る場面もあった。以下にQ&Aの形でピックアップしておく。(敬称略)

――日本IBMの2008年の売上高は3四半期連続で前年同期を割り込んだようだが、新社長はその原因と対策をどう考えるか。

橋本 2008年は事業ポートフォリオをサービス指向へ一層転換する上で、計画時に売上高を意図的に抑えて設定した部分もある。それが業績に影響したと考えられるが、私たちとしては事業ポートフォリオの転換を進めたことで、基礎体力が充実したと捉えている。その意味では、これからは前進あるのみだと考えている。

――会長職を続けるにあたって、なぜ代表権どころか取締役も退くのか。

大歳 新社長に100%手腕を発揮してもらうためだ。社長を退く時はそうすべきだというのが私の考え方。以前から決めていた。

――新社長の年齢は54歳。これまでの日本IBMの新社長就任時の年齢からすると少し年長だが、それはネックにならなかったか。

大歳 年齢は関係ない。現段階で私の後継者として誰が最も適任か、という点だけで選んだ。年齢を語るのは差別につながるというのが、IBMの基本的な考え方だ。

――2008年内に1000人規模の人員削減を行ったが、それを終えてから社長を交代しようと考えたのか。

大歳 たまたまタイミングが合っただけで、まったく関係ない。人員削減というか、個人個人のキャリアプランの選択については、諸々のコストを2008年内に予算化してあったのでこの時期になった。

――日本IBMの社長が日本人である必要はあるのか。

大歳 米IBMのサミュエル・パルミサーノ会長兼CEOは日本IBMで働いたこともあるので、日本市場をよく知っている。その上で日本IBMの社長は日本人がいいということを正しく理解している。

 日本IBMの社長交代は、大歳氏自身が内規の役員定年に達したことを語っているように、昨年秋以降から発表のタイミング待ちという状態にあった。ただ、年の瀬も押し迫った段階での緊急会見の知らせに、米国本社との間で何かあったのか、急きょ米国本社から新社長が来ることになったのではないか、とも予感させたが、結局そうしたサプライズは何もなかった。

 大歳氏および橋本氏にすれば、用意周到だった12月30日の緊急発表。だが世間的には、このタイミングは見事なサプライズだった。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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