エンタープライズITの現状とクラウドへの期待丸山先生レクチャーシリーズ 第2回リポート

丸レクセミナー第2回に登壇した日本IBMの執行役員・ソフトウェア開発研究所長の岩野和生氏。IBMが考えるクラウドと、それがエンタープライズITにもたらすものとは何か。

» 2009年01月13日 00時43分 公開
[渡邉利和,ITmedia]

 先日開催された丸山先生レクチャーシリーズ 2008-2009 第2回では、日本IBMの執行役員・ソフトウェア開発研究所長の岩野和生氏による講演「クラウドコンピューティング最前線――現状、課題、展望」も行われた。同氏は現状のエンタープライズITの置かれた状況を踏まえ、クラウドがエンタープライズITに何をもたらすかを展望した。

エンタープライズITの現状

IBMが考える“スマートな供給モデル”としてのクラウドについて話す岩野氏

 現在、エンタープライズITはさまざまな困難に直面している。岩野氏は、「データ処理量の爆発的な増加」「イノベーションの加速」といった要素を挙げ、ITシステムの価格が低下し、ワークロードが増大する中で、システムの複雑性が増大し、システムの回復力やROI(Return on Investment)が低下するという問題に直面しているという。

 こうした問題が顕著に現れているのが「運用管理面」と岩野氏。新規ハードウェアの購入に投じられる予算がこの10年以上横ばいであるのに対し、運用管理費用が急速に増大し、電源および空調のコストも上昇を続けているというデータを紹介した。

 さらに同氏は、この業界で繰り返し取り上げられる課題でもある、データセンターにおけるIT機器の利用率の低さにも言及した。同氏はIBMならではのデータとして、メインフレーム時代からの利用率の推移を紹介。メインフレーム時代には、使用時間は約75%、アイドル時間は約25%という辺りが標準的で、全体のおよそ4分の1がアイドル時間であったという。一方、IA(x86)サーバではこの比率は逆転しており、アイドル時間がおよそ80%以上にも達している。少数の高価なメインフレームを分け合うように利用するのと、必要に応じてどんどん数を増やしていくIAサーバとの利用形態の差が効率の違いとなって如実に現れているわけだ。クラウドには、このIAサーバの利用効率の低さを解消する役割も期待される。

クラウドとは何か

 岩野氏は、IBMとしてクラウドをどう位置付けるかにかんして、IBMの定義を紹介した。それは「クラウドコンピューティングは、標準化、伸縮性、拡張性にすぐれたコモディティによる、動的にサービスとして(as a service)供給されるIT機能の新しいスタイル」というものだった。

 ここでは、「どこからでもアクセスでき、いつでも使用可能で、自動的に要求に応じて伸縮する、お客さまのセルフサービス」という要件を満たす“スマートな供給モデル”としてのクラウドが想定されている。

 こうした認識を踏まえ、IBMではIBM Research Computing Cloudでクラウドを実稼働させており、主にR&D分野で大きな成果を挙げていると岩野氏。また、IBMがかかわったクラウドの事例として、「ベトナム政府のイノベーションポータル」「中国無錫クラウド・コンピューティング・センター」「アイルランド政府産業開発庁」「iTricityクラウド・コンピューティング・センター」「EU RESERVOIRプロジェクト」といった数多くの実例が紹介された。さらに、研究開発分野では、「IBM-Google-NSFアカデミック・イニシアチブ」といった取り組みによってクラウドコンピューティング環境を学生に対して提供し、大規模分散プログラミングやインフラ技術を教えていることが紹介された。

クラウドのメリット

 IBMでは、クラウドが話題のキーワードとして注目されるようになる前から、「オートノミックコンピューティング」というコンセプトを掲げて研究開発や製品提供に取り組んでいた。オートノミックコンピューティングの基本的な考え方は、ITシステムに高度な自律性を与え、人手の関与がなくても自己修復可能な強靱で安定したシステム稼働を実現できるようにするというところにある。

 オートノミックコンピューティングでは「自己構成」「自己回復」「自己防御」「自己最適化」といった機能の実現期待されているが、これらはクラウドにおいても必要な機能だと考えられる。今後IBMはオートノミックコンピューティングへの取り組みを継続しつつも、クラウドへの取り組みと融合させ、クラウドに必要不可欠な機能として活用していくことになりそうだ。

 こうした実績なども踏まえ、岩野氏はクラウドを活用したデータセンターのイノベーションで期待できる効果として、「IT資産利用効率を約3倍に向上」「数分で新しいIT資源の割り当てが可能になる」「機能提供停止状態を80%削減」「排熱を60%削減」「フロアスペースを80%削減」「災害復旧時間を85%削減」といった数値を挙げている。また、より高い視点からのメリットとしては、「IT資源を“運用中心モデル”から“ビジネス機会創出モデル”へ転換」できることも挙げた。

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