人を稼ぐと、人が育つ――分割発注の発想闘うマネジャー(1/2 ページ)

もし、官の役割が「足らざるものを補うこと」にあるとするなら、分割発注により中小零細企業に直接受注の機会を与えることは理にかなっている。

» 2009年01月21日 11時11分 公開
[島村秀世,ITmedia]

人が育ち地域のために益すること、それが利益

 筆者が長崎県庁のCIOとして、提唱し、実践している「ながさきITモデル」では、分割発注が要である。

 ところが、土木工事などの分野では、「分割発注が業者らによる受注調整の温床となっている疑いが強い」とされている。平たくいえば、皆で仲良く儲けるための手法が、分割発注だと指摘されているのだ。もともと、「中小零細企業に受注機会を確保」するための政策的配慮から生まれた手法なのだが、度を越せば「悪」ということだろう。

 例えば道路工事が、複数の工区に分割されて発注された場合、受注各社は資材やショベルなどの重機を個別に手配することになるので、資材調達コストの低減や重機の効率的運用が難しい。また、契約金額が大きくなるにつれて減っていくはずの諸経費率が分割により上昇してしまい、総額でみると経費が余分にかかったりもする。さらに、複数の工事業者を調整・監理する職員の人件費増加も避けられない。確かに、納税者の立場で考えれば、手法としていかがなものかといいたくなる。

 一方、事業者の立場で考えた場合はどうであろう。中小企業が仕事を得る手段は、以下の2つしかない。

  • 下請け(or請負)
  • 直接受注(or直接販売)

 直接受注は実績に基づく信用を基本としているので、企業の初期段階においては、下請けしか選択肢がないことが多い。つまり、易きに流れているのではなく、できないというのが現実だ。それに、職員やその家族の生活を考えると、着実さも必要だ。リスクが見え隠れする直接受注は、なかなか進むものではない。

 このような状況の中、もし、官の役割が「足らざるものを補うこと」にあるとするなら、分割発注により中小零細企業に直接受注の機会を与えることは理にかなっていると筆者は思う。

 李氏朝鮮時代を描いた韓流ドラマに「商道」というのがある。この中の一節に、「商いとは、お金ではなく人を稼ぐこと、人が残ること、それが利益」という言葉がある。筆者は、この言葉の中に地方自治体のあるべき姿があるように思う。例えばこうだ。

自治体が使うお金は、企業が儲けるためのお金ではなく、人を稼いでもらうためのお金、人が育ち地域のために益すること、それが利益。

 「人を稼ぐ」という部分には、親方に叱られながらも育っていく弟子の姿が垣間見える。もっとも、徒弟制度のような関係は、給料は無く衣食住のみが保障されるというものだから、現代的ではない。しかし、弟子である自身が作った物や作品が、保障以上の価値を産んでいるのを肌で感じられた。感じるからこそ、独立し、自身が親方ともなったのだろう。

       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ