「案外やるもんだ、あの部長」とうならせる素人CIOサバイバル方程式

縄張り意識丸出しの剛腕タイプや自意識過剰気味、能力はあるのに消極的、というように情報部門の責任者もさまざまだ。成功するCIOのタイプはどんなものだろうか。

» 2009年01月28日 16時34分 公開
[増岡直二郎(nao IT研究所),ITmedia]

情報部門主導を標榜するが総スカン

 CIO(Chief Information Officer 最高情報責任者)の役割は、CEO(Chief Executive Officer 最高経営責任者)に限りなく近くなっているという主張がある。

 その根拠の1つとして、同じくC(Chief)とO(Officer)の付くいくつもの「最高責任者」(後述)の役割を、CIOが担わなければならない時代になっているとされる。現に米国におけるCIOの役割は、それほど広く、かつ深くなっていると言う。確かに、CIOの役割の理想形はそうかもしれない。

 しかし、現実はどうなっているのか。実態を見ながらあるべき姿を追おう。

 いくつもの企業で、いくつものタイプのCIOを筆者は見てきた。それらのタイプについては、ここに紹介すると「えっ? そんなタイプって本当にあり得るのか?」となりそうだが、これが現実である。自分自身や身の回りを改めて冷静に観察すると、以下の紹介と似たようなタイプのCIOが、少なからず見えてくるはずだ。

 A氏は取締役経理部長兼務のCIOだったが、彼の最大の関心事は、情報システム部門内の人事管理(特に、部門内の人間の人事評価に関して、いかに有利な評価を獲得するかということについて)と、情報システム部長が作成する情報投資の申請そのもの(部下の提案した情報投資申請を、内容はともかく、いかに認可へ持ち込むかということについて)であり、そこには異常なほどのエネルギーを注いだ。それ以外のテーマについては、あまり関心を示さなかった。Aには、「オレが情報システム部門を守っているのだ」という使命感と力を誇示するごとき雰囲気があった。このようなAの発想は、CIOどころか、情報システム部門の係長のレベルにも及ばない程度であった。しかし、Aは兼務の経理部長として金を握っていたので、周囲は当たらず触らずにして、摩擦を避けた。

 B氏は情報システム本部長であり、役員待遇で、CIOに任命されていた。情報システム部プロパーの育ちであり、当然のことながら情報システムには非常に詳しかった。Bは部長職にあるまでは、きわめて優秀な担当者であったし、管理者であったようだ。しかし、本部長・CIOに任命されてから、情報技術に偏重した考え方に捉われ、さらにかねてから彼自身に潜在的にあったユーザー部門を低く見る姿勢があらわになってきた。Bは役員会議に出席させてもらっていたが、その席上でも、予算会議や業績フォローアップ会議でも、開発会議でも、あらゆる機会に難解な専門用語を駆使して周囲を困惑させた。ユビキタス情報社会の到来に対応しなければならないとか、クラウドコンピューティング導入で費用を安くするのだとか、当社は時代の最先端を行かなければならないというのがBの持論だった。

 一方でBは、ユーザー部門は戦略がなく、要求が場当たり的で、信用できず、まるで衆愚のようなものなので、すべてについて情報システム部門が主導で進めなければならないという考えを表に出した。一見先進的な考え方のBは、その存在をトップにある程度認められていたが、現場からは総スカンだった。

 C氏は大企業で社内役員待遇、専任CIOに任命されていた。Cは戦略的発想もできたし、もともと勤勉家でITについての造詣も深く、コミュニケーション能力も持ち合わせていた。しかし惜しむらくは、そもそもITを重要視しないトップとの関係が薄く、その存在が社内で軽視されていた。C自身がITの重要性を認識するなら、全力でトップや役員に体当たりして、自己主張をすべきなのだが、いかんせんCはそこまでの迫力を持ち合わせていなかった。Cは、CIOとして形式的存在に成り下がっていた。

自分の役割は何か、をまずはっきりさせよ

 次は見習うべき例である。Dは常務取締役経理部長で、CIO兼務だった。経理畑育ちのDは、ITについては全くの素人だったが、自分のブレーンを持った。ITの技術やセキュリティに詳しい情報システム部の課長、経営戦略に詳しい企画室の室長、知的所有権やノウハウに詳しい特許室の部長、全社の組織や人事に詳しい総務部長らを情報戦略会議という名の下に集めて、2週に1回の意見交換の機会を持っていた。ここで、Dは情報を把握し、知識を得て、重要テーマを議論し、CIOとしての方針を練って、打ち出した。Dはもともと経理担当役員だからトップとの意思疎通も良く、ITに素人ながらCIOを見事に務めている。

 さて、話を戻そう。経営がグローバル化し、経営環境が複雑さを増し、激変する中、そして企業に対する世間の眼がますます厳しさを増す中で、企業におけるCIOの役割は近年、より一層広く、より一層深くなっていると言われる。

 しかし、CIOの役割が重要になっているにもかかわらず、CIOの社内における存在は相変わらず軽い。しかも、多くのCIOはそれを甘受しているのが問題である。

 その原因は、CIO自身がその役割や重要性を充分認識していないことであろう。それは、上記のA、B、Cの3氏の例に見られる。

 CIOが役割と重要性を充分認識していれば、Dのような経営姿勢を取れるはずである。CIOには、Dのように大いに知恵を出して、工夫をして欲しいものだ。

 そこまで思いが至らないとすれば、彼にはCIOはおろか、管理者につく資格もない。そうなると、議論の外である。実は、あえて言わせてもらうと、そういうCIOが現実に少なくないのではないか。

 より広く、深くなったCIOの役割について、次回検討する。

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プロフィール

ますおか・なおじろう 日立製作所、八木アンテナ、八木システムエンジニアリングを歴任。その間経営、事業企画、製造、情報システム、営業統括、保守などの部門を経験し、IT導入にも直接かかわってきた。現在は「nao IT研究所」代表として、執筆・講演・大学非常勤講師・企業指導などで活躍中。著書に「IT導入は企業を危うくする」(洋泉社)、「迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件」(洋泉社)


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