NECにおけるIT/ネットワークソリューション事業は、売上高で前期比4.1減と微減にとどまる見通しだ。営業損益では前期比30.9%減の1110億円を予想。減少幅は小さくないが、それでも他の分野がすべて赤字になる中で唯一の黒字となる。
IT/ネットワークソリューション事業の中から、ITサービス/SIとITプロダクトを抜き出したITソリューション事業でみると、売上高ではほぼ前期と同じ水準、営業損益でも前期比1.5%減と微減にとどまる見通しだ。
だが、矢野社長はそんなITソリューション事業についても、「前期予想(08年10月末)から金融、通信、製造業の顧客層での投資状況が悪化している。また地方や中堅・中小企業向けの商談では、サーバやパソコンの更新案件の延期・中止が増えてきており、事業環境が急速に悪化している」との厳しい見方を示した。
「しかしながら」と、矢野社長はこう続けた。
「ITシステムは今や企業のオペレーションの中枢を担っている。したがって、いろんな形でITシステムの更新や増強を図っていかなければ、企業競争力に影響を及ぼすのは必然だ。経済環境が厳しい中では、IT投資にも少々の絞り込みがあるかもしれないが、大きく減らすようなことをしてしまうと、企業にとっては致命的な結果を招きかねない」
聞きようによっては、少々脅しのようにも受け取られるかもしれないが、普段は、ともすれば自らが得意とする通信分野の話にウエイトがかかりがちな矢野社長が、これだけIT投資の必要性について熱く語ったのが非常に印象深かった。
だが、この発言も、次の発言の前置きだったかもしれない。
「実はNECにおいても、今年度からおよそ400億円を投資して社内のITシステムの増強を図っている。目的は業務の見える化を図って新たなイノベーションを展開するための企業体質を強化することにある。今後も当社を取り巻く環境は厳しく、むしろ悪化すると覚悟している。IT投資とともに、今回発表した事業構造改革と収益構造改革をしっかりと進め、この大不況のトンネルの先にある次の成長フェーズへ向けた布石を着実に打っていきたい」
そして、こう結んだ。
「今回の大不況によって、弱い企業は間違いなく振り落とされる。逆に強い企業はさらに磨きをかけておけば、トンネルを抜けて新しい時代がやってきたときに大きく飛躍できると信じている。したがって当社も強い企業になるべく、改革を推し進めていきたい」
この矢野社長の決意は、今すべての企業に求められているのではないだろうか。
まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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