新人エンジニアは積極的に言い訳をしよう現場を変える「地雷一掃力」(2/3 ページ)

» 2009年04月03日 08時35分 公開
[今上耕介,ITmedia]

 新人の皆さんが引き起こすトラブルの多くは、知識や経験の不足が原因で起こる。だがそれはトラブルの本当の原因ではない。新人のミスが業務の致命傷につながるのは、体制に欠陥があるからだ。しかし、体制の欠陥は発見されにくい。普段は何事もないようにうまく仕事が回るからである。だからこそ新人が配属される時期を好機として欲しい。新人のミスによってアキレス腱が見つかれば、悪い体質を改善できるのだ。

 もう一度、さきほどのケースを考えてみよう。どうすれば同じ間違いを避けられるだろうか。

 まずA君にはタイムアウトなどの基本的な設定項目とその値の意味について学習してもらう必要がある。タイムアウトの意味を理解していれば「5ミリ秒」という設定値が妥当かを考えて判断できるはずである。そうすれば、もし先輩が設定値の入力指示表に5秒と書くところを5ミリ秒と記入ミスをしても、A君のほうが「5秒の間違いですか?」と確認できるようになる。

 先輩側は指示の方法を学ぶべきだ。依頼される側に本番の作業経験があるか、訓練の経験があるか、同種のシステムの取扱経験があるかなどを考慮して指示するようにすればいい。

人的ミスは悪か

 意思疎通の部分以外にもミスは起こりうる。けたを間違えて300を3000とタイプミスしたり、接頭辞の解釈で1000と1024を間違えたり、秒とミリ秒のように単位を間違えたりするといった人的ミスだ。

 コミュニケーション不足による火星探査機の炎上 コミュニケーション不足による火星探査機の炎上(出典:科学技術振興機構)

 「こういうミスをする人は仕事に集中していない、意識や能力が高い人を雇えばミスは起きない」と言うのは簡単だ。だが、米国のNASA航空宇宙局ですらメートル法とヤード・ポンド法を間違えたことがあるのをご存知だろうか。NASAでもこのような単純なミスを防ぎきれず、こともあろうに火星で探査機を失っているという事実を覚えておいたほうがいいだろう。

 ミスは防ぎにくいものだ。そうでなくても経験が少ない新人はミスを起こしやすい。そういった理由から、技術的にミスを回避できる仕組みを設けられるなら、積極的に対策を講じるべきだ。

 何年も新人がいなかった現場など、ミスを脅威につなげないための対策を何もしていないということもある。もし新人の立場でこうした現場に放り込まれたら、ミスをしそうだからということを言い訳にして、積極的に改善を提案していくといい。それは自分が起こすトラブルを減らすことにもつながるし、未来の新人も助けることになる。ベテラン社員もその恩恵を受けることできるのだ。

- 方法
1 値を設定するコマンドをバッチファイルにまとめ、ソースを検証してから実行する
2 入力した設定値をいったん画面に表示し「OK」で反映する画面を作る(フールプルーフ)
3 作業を二人以上で担当する(デュアルコントロール)

表2:入力ミスを低減する仕組み

 新人はミスをしやすく、ベテランは滅多にミスをしない。また、長年IT業界に勤務し未曾有の大障害を幾度となく経験しているエンジニアには、成長の過程で心に負った傷が丈夫なかさぶたになり、危険に対して鈍感になっている人もいる。こうした場合、障害が起きて多大な影響が出るシステムに対しても、大胆に作業できるようになる。そのためベテランが多い現場では、端末がシビアな設定になっているなど、新人向けとはいえない環境が多い。

 システム開発の現場では、こうした地雷原が広がっている。ベテランのエンジニアはその地雷原で目隠しをしたまま鬼ごっこができるスキルを備えている。だが、いつまでもベテランのエンジニアに頼ってはいられない。彼らが突然事故に遭うかもしれないし、転職する可能性だってある。

 現場が抱えるこの種の危うさを打開する力の一つが、新人のエンジニアにはある。彼らは地雷が埋まっていることを知らない。だから、その上で安易に鬼ごっこをしてしまい、地雷を踏む。その地雷を踏んだ瞬間、それは組織にとって改善のチャンスに変わる。

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