わが社のコスト削減

外資ソフトが攻勢、「国策」定額給付金の支給管理にもわが社のコスト削減(2/3 ページ)

» 2009年04月06日 08時30分 公開
[怒賀新也,ITmedia]

SAP、製造業の自前主義に挑む

SAPジャパンの木下氏と脇阪氏(右)

 ものづくりの現場にパッケージソフトはそぐわない――。製造現場のシステムに関わる人の間では「常識」ともいわれている。ものづくり企業にとって工場の生産管理は心臓部であるため、汎用品であるERPパッケージでは要件を実現できないというのが理由だ。実際に、日本および世界を代表する自動車メーカー、トヨタ自動車なども生産現場のシステムの多くを自社開発する自前主義を貫いている。

 だがこの考え方も時代の流れの中で変化を求められている。SAPジャパンの脇阪順雄バイスプレジデントは「自前主義が日本が世界から孤立する“ガラパゴス化”を引き起こしている」と指摘する。経営のグローバル化の進展で製造業は世界各地に工場を持つようになった。海外に設立する複数の工場のシステムを標準化しておかないと、工場ごとに仕様が異なってしまい、本国から情報システムを集中管理できなくなってしまう。

 SAPジャパンでエマージングソリューションイニシアティブ事業開発担当部長を務める木下史朗氏は「“日本の工場は分かるんだが米国工場や中国工場が何をやっているか分からない”といったことになる」と指摘する。たとえ、本システムをコピーして「横展開」しても、時間とともに各地のシステムは違ってきてしまう。

 重要なデータを各工場の現場担当者がExcelなどのスプレッドシートで管理してしまい、全体としては誰も状況を把握していないという実態もある。なによりも、工場の拠点がある各地にシステム担当者を置くことになるため、システムの変更や管理コストが膨大になる懸念が出てくる。

 脇阪氏によると、最近になってアジア地域での工場設立の際、現場の生産実行システム(MES)としてパッケージ製品が広く使われるようになってきている。中国やインドの高い経済成長に合わせ「なるべく需要地近くに、すばやく工場を設立する必要がある。とてもMESを手作りしている時間はない」(同氏)。

 かつては、各工場の工場長があらゆる判断をするのが一般的だったが、グローバル化が本格化した現在、複数の工場を統一した形で判断する必要がでてきている。

 SAPのソフトウェアは人事や会計など管理業務向けとして広く利用されているが、生産管理の現場ではそれほど利用されていない。そのため、同社はこうしたグローバル化による状況の変化をチャンスととらえている。生産計画の立案など計画系の機能は豊富だが、現場のポップ端末や機械とSAPのデータを結びつけるなどの実行系の機能が特に弱かった。ライン、セルの管理など生産現場の効率化を苦手にしていたのだ。

 同社は6月、新たにMES製品「SAP Manufacturing Execution」の日本語版を提供する予定だ。Manufacturing Executionを使うと、IT部門以外の担当者でも、ドラッグ&ドロップの要領で製造現場の複雑な仕事の手順などをデータとして残せる。「標準化した仕組みによって、さまざまな拠点でデータを無理なく共有できるのはパッケージの良さ」だ。Manufacturing Executionにより、企業にとって海外工場の早期導入、立ち上げが楽になる。量産製品の試作や各拠点の作業手順情報の展開まで、製造拠点間を統一的に管理できるのだ。

世界の工場を束ねた上で在庫などを管理できる

 また、SAPはグローバル拠点をリアルタイムに可視化するためのソフトウェア「SAP MII」も提供しており、3月に新版を発表した。SAP MIIは、分散する工場のあらゆる情報をつなぐソフトウェアだ。データベース、データウェアハウス、POPサーバなどさまざまな場所に分散する情報ソースを集め、ダッシュボードに一元的に表示する。世界各地の工場で何が起きているのかを一目で分かるようにできる。

 Manufacturing ExecutionとMIIは、主力のSAP ERPに加え、製造現場に弱いというSAPのイメージを払拭すべく立ち上げる「SAP Perfect Plant構想」の中心的な2製品になる。

 工場の現場を管理するこうしたソフトウェアは、企業が注目するコスト削減にどれだけ貢献できるのか。木下氏は「直接的な効果よりも、コスト削減余地のある場所をつかめることの方が重要」と指摘する。Perfect Plantのソフトウェアを使って生産工程を調べ、稼働率の低いサーバや、メンテナンスをし忘れて障害を起こす可能性が高まっている機械などが分かるようになる。こうした情報を収集し、サーバの稼働率アップやトラブルの事前回避を実現できれば、大きなコスト削減につながる。

 SAP Perfect Plant構想は、世界に広がる製造業の生産現場効率化と、コスト削減の両方を実現する可能性がある。もちろん「SAPのライセンスとメンテナンスの費用水準」を差し引いて考える必要はあるかもしれない。

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