コンピュータ業界に新たな秩序――Oracle Buys Sun伴大作の木漏れ日(2/4 ページ)

» 2009年04月21日 18時56分 公開
[伴大作,ITmedia]

Sunは「負け組」の一社

 一方、2001年のネットバブル崩壊で大きな傷を負った企業がある。2002年にHPに買収されたCompaqであり、コンピュータグラフィックの本家Silicon Graphics、ネットワークではExtreme Networksだ。これ以外にも実に多くの企業が米国市場から退場を余儀なくされた。

 この「負け組」の一角にSunも居た。Sunの株価は2000年8月の253.8ドルをピークにその後地すべり的な価格低下に見舞われ、2008年12月1日には最安値2.83ドルまで下落した。

 一般にNASDAQ上場の企業で株価が5ドルを割り込むと危険水準、3ドルを切ると倒産の危機といわれるが、Sunはまさに株式市場の信任を失っていた。

 では、Sunはなぜ勝ち組に入れなかったのだろう。Sunの主力商品を翻って考えてみよう。Sunの強みは元祖RISCチップと言っても過言ではない「SPARC」、ベンダーUNIXの代表である「Solaris」、インターネットの標準スクリプト「Java」、今やインターネットの実質的な標準ともいえる「MySQL」、シンクライアントのパイオニア「Sun Ray」などだ。

 上記製品を見ると、SunがICT業界で大きな貢献をしたことがよく分かる。今やJavaなしのWeb構築は考えられない。MySQLのような高性能なリレーショナルデータベースは基本的にサービスは「無償」というインターネットの世界で大きな地位を占めている。

 しかし、この2つはいずれも「無償」だ。いくらユーザーに利用されても、Sunには一銭も入ってこない。他の主要製品を見回しても、SPARCチップはRISCの世界で汎用性という視点でIBMのパワーには及ばず、CPU全体を見回しても、最大手のIntel、携帯電話で大きな地位を築いたARM、インテルのコンパチブルAMDにも及ばない。

 UNIXが一般に浸透するきっかけとなったSolarisも、他のベンダーUNIXであるIBMのAIX、HPのHP-UXとの競合ではそれなりに頑張っている。だが、Intel系CPUに対応したUNIX系OSとしては、LinuxやAppleが投入したIntel系CPU搭載のMac OS Xにも絶望的な差をつけられてしまった。

 加えて、Sunのハードウェアビジネスは、ネットバブル崩壊後常にライバルに押しまくられてきた。ネットワークコンピューティングを標榜してきたが、SPARC、Solarisを搭載したコンパチブル分野では、富士通との競争に晒された。得意のWebサーバ分野では安価なIntel搭載ラックマウント型に歯が立たない。販売先では、これまではSunが上得意としていたディーリングシステムで好調な業績を上げてきたが、今回の金融危機でそのビジネスも駄目になった。

 これではSunの将来性に疑問符が付いても不思議ではない。もっと、極論するなら2008年の12月にSunは事実上命の灯火が消えたのだ。

Oracleの思惑

 ここから先は、わたしの今までの知見を基にした推定の世界だが、Oracle成長の切っかけになったのは、同社のOracleデータベース(DB)であることは周知の事実だ。同社のDB製品はオープン化の波に乗り、ベンダーUNIXではほぼ100%近くのシェアを獲得、ライバルIBM DB2に大きく水を開け、事実上DB業界唯一の支配者となった。

 ERPを代表とする業務パッケージの世界でもライバルSAPに追いつくため、旧PeopleSoft、旧JDEdwardsを買収、次いでツールの世界で圧倒的な地位を築いてきた「WebLogic」を製品に持つBEA Systemsを買収、コーポレート向けソフトウェア製品で磐石の地位を築いた。

 あえてOracleの弱点を指摘するなら、インターネットWebの世界ではOracleの製品シェアが決して高くないことだった。前述した通り、MySQLやPostgreSQLが相変わらず大きなシェアを確保し続けていた。この状況を打破するには、シェアを一層高めているMySQLを自らの支配下に置くというもくろみは正しい。SunはそのMySQLを所有している。

 Javaの本家もSunだ。SunがJavaの正当性を保つため、コンシューマー向けで圧倒的な地位を確保してきたMicrosoftに常にJavaとのコードの互換性を保つよう求めてきたのも正当性の証だ。OracleがSunを買収した後、Javaのソースコードの支配権もOracleに移る。当然、Oracleは最大のライバルであるMicrosoftのSQL ServerやIBMのDB2に今より厳しく対応するのは簡単に予想できる。

 Javaの健全な発展のため、有償化というオプションもあり得ると考えている。これなら買収に要した7000億円程度の回収はそれ程難しくないことだ。

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