AmazonとGoogleが新聞とジャーナリズムに救いの手?

ネットに押されて斜陽化する新聞業界。だが、Amazonは新しいKindleで新聞社と提携し、またGoogleはオンラインニュースサイトを支援していると主張している。

» 2009年05月07日 14時37分 公開
[Nicholas Kolakowski,eWEEK]
eWEEK

 米AmazonとGoogleはそれぞれ5月6日、新聞とジャーナリズムの未来に関する提言を行なった。Amazonが発表した新しい電子書籍リーダーには、新聞のデジタル版の配信・表示機能が追加されている。一方、Google幹部は議会証言において、オンラインニュースが今後進むべき方向について提案した。

 Amazonは6日、ニューヨークのマンハッタンにあるペース大学のマイケル・シンメル芸術センターにおいて電子ブックリーダーの新モデル「Kindle DX」を発表したが、この新製品の発表の場としてこれ以上に象徴的な場所はなかっただろう。

 かつて19世紀、この場所にはNew York Timesが入居するビルが建っていたのだ。当時、世の中に情報を広めるための最速の方法といえば、安価な紙に印刷し、新聞配達人を介して配布するというものだった。だがそれから1世紀の後、インターネットの登場により電子ネットワークを介してニュースを配信できるようになったことで、印刷ベースの従来の手法は時代遅れになり始めた。つまり、そうした手法は廃れ始めたのだ。

 だがKindle DXの狙いは、印刷ジャーナリズムを葬り去ることではなく、むしろ守ることのようだ。Amazonのジェフ・ベゾスCEOはKindle DXの発表に際し、New York Times、Washington Post、Boston Globeの新聞大手3社との提携を発表した。この提携により、各紙が配達されない地域の居住者のうち、デジタル版の購読を長期契約した顧客には、Kindle DXが割引価格で提供されるという。

 Kindle DXの画面サイズは9.7インチと、Kindle 2よりも約2.5倍大きく、自動回転機能により、垂直方向と水平方向のどちらにも文書を回転できる。またDXにはKindle 2と同じく5ウェイのコントローラが搭載される。小売価格はKindle 2の359ドルに対し、Kindle DXは489ドルだ。

 ベゾス氏はプレゼンテーションの冒頭で、現在Amazonの書籍の売り上げのうち35%はKindle Storeの分だと発言した。Kindle Storeでは約27万5000タイトルの書籍が扱われている。Kindle DXのストレージ容量は3.3Gバイトで、約3500冊の書籍を保存できるという。この新モデルはPDF形式にも対応している。

 なおKindle DXは新聞に関して幾つか独自の機能を備えており、ダウンロードした新聞記事は連続してパラパラめくって表示したり、セクションごとに表示したりできる。

 6日の発表イベントには、New York Times Companyのアーサー・サルツバーガー・ジュニア会長も参加し、Kindleについて、「印刷とデジタル情報の収束を促す役割を果たすかもしれない」と語った。また同氏は、新聞が生き残るためには抜本的な改革が必要だろうとも指摘した。

 さらに6日には、Googleもニュースの発展において自社が果たしている役割をアピールした。

 Googleの検索製品および利便性の向上担当副社長であるマリッサ・メイヤー氏は同日、上院商務・科学・運輸委員会において「ジャーナリズムの未来」について発言した。

 同氏は自らの発言を次のように締めくくっている。「米国にとって、国レベルと地域レベルの両方で健全かつ独立したジャーナリズムを保護することは重要な目標の1つだ。当社も、オンラインニュースサイトに相当量のトラフィックを誘導するなどして協力している。広告を介して新聞各社の収益アップにも貢献しており、新聞社が何百万人ものユーザーにリーチを広げられるようツールやプラットフォームも提供している」

 だがメイヤー氏は、「Webでのニュースの提供方法はオフラインでの従来の手法とはかなり異なる方向へと進化している」とも警告している。同氏によると、ニュースサイトは過去の記事や各種の補足情報へのリンクを提供するなどしてそのメリットを生かしているが、その一方で、正確かつ的確なニュース記事へ読者を導く方法や、ある特定のトピックに関する主要な情報源としての立場の確立などについては、まだ取り組むべき課題が残っているという。

 Webでのニュース配信を今後さらに進化させていくためのポイントとして、同氏はニュース通信社が個々の記事を「消費の原子単位」としてとらえる必要性を指摘した。これはつまり、各記事を全体の一部としてではなく独立した単体として扱うということ、即ち、初見の読者にも十分に理解できるような文脈で、なおかつそのニュースを追っている読者も満足できるような最新情報を十分に織り込むということだ。

 そのほかメイヤー氏は、Wikipediaのエントリーのような形で1つの記事に関する最新情報を1つのURLの下に順次追加していくというやり方や、関連記事へのリンクなど「次のステップ」にユーザーを導くことの重要性にも言及した。

 紙媒体が急速にデジタルに取って代わられるなか、ニュースやその配信方法が最終的にどのような形態になるかについては、もちろん、まだ定かではない。ただし、どう変化するにせよ、19世紀からこのかた、そしてこの先もずっと変わらずに受け継がれていくであろう真理が1つある。それは、「肝心なのは伝えるべき話の中身」ということだ。

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