各種の調査で、87%のCIOが業務のプロセス改革を重要視し、91%のCEOが仕事の方法を再構築することを最重要課題としてあげているという。カーター氏はこうした数字を紹介しつつ、いかにしてアジリティを達成すればいいのかについて説明する。
「あるサービスにどんな機能を追加すればさらに顧客は喜ぶのか。こうした調査は通常3カ月かかり、費用は100万ドルを越していた。一方で、Twitterで140文字の質問を世界中の顧客に問いかければ、1時間で分かる。しかも100万ドルかけた調査結果とほぼマッチングしている。SNSは仕事を変えるための重要なツールだ。仕事を変えるためには、人を中心にすえていく、そして人と人とのコラボレーションを可能な限り機敏にしていくことがポイントになる」
コラボーレーションを活発かつ機敏にし、変化を見極め、業務プロセスをダイナミックに改革する方法、それはリアルタイムのデータ活用とビジネスユーザーへのITのパワーシフトが鍵になる、とカーター氏は話す。
「ヨーグルト製品を生産販売している欧州のダノン社は、複数のサプライチェーンで別々のラインを動かし生産をしていた。そうしたIT環境をSOAベースで変えて、ビジネスユーザーにパワーシフトし、リアルタイムの需要に基づいて、サプライチェーンの構成を素早く変更する仕組みを作った。これによって、これまで2日間かかってた構成変更を15分でできるようになった。こうしたことを実現するには、クラウドコンピューティングが必要なのだ」
このようなダイナミックなプロセス改革によって実現する「低コスト短時間」の効率的な仕事の進め方をIBMでは「Smart Work」と呼び、それを支えるIT基盤はSOAをベースに構築され、各企業のファイアウォールの内側にあるプライベートクラウド上で動いているという。
カーター氏は、Smart Workを実現するためには「変化対応能力を持ったビジネスプロセスモデル」「よりスマートなコラボレーション」「Smart SOA」の3要素が必要だとした。
「変化対応能力を持ったビジネスプロセスモデル」に対してはビジネスルール管理システム 「IBM WebSphere ILOG JRules」とユーザーがクラウド上でプロセスをモデリングするというコミュニティーサービス「BPM BlueWorks」が適応される。また、「よりスマートなコラボレーション」については、Amazon EC2でのIBMミドルウェアの提供サービスで対応、クラウド環境でのスムーズなSOAシステムの活用を目指す「Smart SOA」に対しては、「WebSphere DataPower」「WebSphere CloudBurst」の2つのアブライアンス製品を投入するという。
中でも今年6月にはサービスが開始されるという「BPM BlueWorks」はビジネスユーザーが自社の業務プロセスを検討するツールとして利用できるサービスで、利用料金は不要だ。利用者が検討するだけでなく、コミュニティーサービスとして機能し、その道の専門家とのコラボレーションを実現するという。業種ごとにベストプラクティスが蓄積されているといい、カーター氏が説明したようなダイナミックなプロセス改革のアイデアが具体的に示されることも期待できる。BPM BlueWorksでモデリングされたプロセスは、同社のBPM製品である「WebSphere Business Modeler」にエクスポートし、BPM実行エンジンで活用することができるという。
SOAとクラウドによるユーザー企業へのアプローチを本格化しているIBMは、自身もビジネスモデルの大きな変革を目指しているようだ。カーター氏が実例としてあげた、ダイナミックなプロセス革新はすべての企業ですぐに実現できるものではないかもしれないが、KPIに加えて、目標達成速度を指標とするKAIが重視される流れは確かに今後ますます大きなものになっていくだろう。
「いまこそ、勝ち組、負け組が分かれるとき」と語るカーター氏のメッセージで重要だと感じられたのは、KAIによってアジリティの達成がこれまで以上に重視され、その目標そのものがかなり過激なものになっていく、ということと、その過激な目標を達成するには、ビジネスユーザーにIT活用のパワーシフトをしていかなければ無理だということだ。IT部門とビジネスユーザーがその方向性について具体的なイメージを、まず共有していく必要があるだろう。
それにしても、勝ち組に入るためにここまで大胆に業務プロセス改革を行うと、社内に「負け組」を抱えることになるのでは、という感想を抱いた。SOAとクラウドをフル活用することで、新しい仕事を創出することにも目配りする必要があるだろう。
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