ITにも「道」あり。究めるなら「守・破・離」を知るべしIT Oasis(2/2 ページ)

» 2009年06月03日 19時30分 公開
[齋藤順一,ITmedia]
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先人の教えをそのまま適用するだけでいいのか

 『守』の時代は師の教えがすべてである。書道でいえば、臨書によって師と同じように書ける事を目指すわけである。師の世界が全てである。

 やがて、実践を重ねるうちに、偉大な先人が開発した理論やフレームワークを現実に適用していくと、しっくり来ない時がある。あるいは、この先生の説はどうも納得できない、肌が合わないといったこともある。何でもかんでも、先人の手法をまねて、そのまま適用するのはおかしいのではないかと気づく。書道でいえば、書とは何か、書道とは何かを追い求めるようになる。これが『離』である。このような気持ちの変化、取り組み方の変遷は当然の流れだといえる。

 社会科学で、理論やフレームワークがどのように構築されていくのか考えてみれば納得できる。これもフレームワークであるが仮説検証を使っていく。

 世に名だたらんと考える先生は新説を主張しようとする。まずこうなっているはずだという仮説を立てる。次に、仮説を証明するためにたくさんの事例を集める。事例を分析、検証して、仮説が棄却できなければ、仮説が成立したことになる。仮説は理論、フレームワークとして世の中に紹介されるのである。多くの人が適用し、支持したフレームワークが時代を経て、定石として生き残っていく。

 フレームワークは多くの事例から抽出されて出来たものであるから、現実の課題に適用すれば、得られる結論は相当程度の信頼を置けることになる。こうしてフレームワークが課題解決ツールとして使われるようになるのである。ここで注意したいのは仮説検証過程である。

 多くの事例といっても有限であるし、仮説を検証するために事例を集めるのであるから、そこでバイアスがかかる、あるいはフィルタレーションが働くことも考えられる。また、フレームワークの研究当時は正しかったが、時代の変化とともにパラダイムが変わっている事も考えられる。フレームワークを使う人の立ち位置や有する知識、経験は人それぞれである。メンタルモデルがそもそも違うのである。

 したがって、実際にフレームワークを適用してみて、自分でフィットしないと感じることはあり得る。そこで、既存の理論やフレームワークを内省によってブラッシュアップしていくわけである。

自己の型を自在に操る段階

 『守』の段階で、外部のフレームワークに頼っているが、やがて『破』に辿り着くと、多数の事例から共通項を括りだしたり、既存のフレームワークと対比させたりすることによって、自身の頭の中に、次第に自己流のモデルを形成させていくようになる。

 こうして独自の型が完成し、自己の型を自在に操れるようになると『離』に到達する。人は自己の頭の中に独自のメンタルモデルを持っている。メンタルモデルとは認知心理学などで用いられる言葉で、自身の価値判断や意思決定に活用される「固定観念」である。自分なりの型といってもよいだろう。

 柔道でいえば古賀稔の背負い投げであり、相撲でいえば少し古いが、柏戸の左前褌右おっつけから土俵際まで一気の電車道のようなものである。マニュアルに頼っていたり、既存のフレームワークを参照していたりした頃と異なり、自分の頭の中のメンタルモデルを使って、事象を把握し、分析、評価できるようになる。時間をかけて既存の概念、フレームワークを利用しながら作り出した独自のフレームワークで、顧客や自社のビジネスやITを見極める、そんな状態になれば、IT道の上流編を究めたといえるだろう。

 あなたは自分の『型』を持っていますか?

プロフィール

さいとう・じゅんいち 未来計画代表。NPO法人ITC横浜副理事長。ITコーディネータ、CIO育成支援アドバイザー、上級システムアドミニストレータ、環境計量士、エネルギー管理士他。東京、横浜、川崎の産業振興財団IT支援専門家。ITコーディネータとして多数の中小企業、自治体のIT投資プロジェクトを一貫して支援。支援企業からIT経営百選、IT経営力大賞認定企業輩出。


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