クラウドって何だ――流行り言葉に隠された真実伴大作の木漏れ日(3/3 ページ)

» 2009年06月05日 16時08分 公開
[伴大作,ITmedia]
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問題点も

 一見、バラ色に見えるクラウドだが、欠点もある。クラウドを利用するにあたり、高速ネットワークの敷設が前提になっていることだ。当然の話だが、これが案外難しい。

 一般の企業では、高速なネットワークの整備が随分進んでいるが、それはあくまで自社独自の閉域網で、インターネットに接続されているわけではない。もちろん、クラウドを閉域網より外に置く場合、かなりのネットワークコストが発生する。

 別の問題もある。セキュリティだ。さまざまな企業が同じ環境でシステムを利用することになる。多くの企業で行われている業務はかなりの部分で共通し、似通った処理系がある。それらは、クラウド環境を提供する事業者のテンプレートを複数の企業が利用する形になる。データに関しては別々に保護されるだろうが、同じ業務なら、クラウド上の各企業のシステムにほぼ同じ処理がなされる。その場合に、セキュリティに問題が発生する可能性は否定できない。他社のシステムが自社のシステムに影響を及ぼす可能性がある場合、セキュリティの確保はやはり大きな課題になるといえる。

 しかし、このような欠点なり、弱点を差し引いても、やはりクラウドは魅力的だ。

自家用車と快速通勤電車

 「クラウドは快適な通勤電車のようなものだ」というと驚かれるかもしれない。しかし、クラウドを表現する場合、最も適切だと考え、わたしはこのたとえをよく使う。

 現在、多くの企業は、自社でコンピュータや通信環境を所有しているのが一般的だ。確かに、アウトソーシングを利用している企業がないわけではないが少数だ。その場合でも、システム構築に関しては自社の責任で実施している。つまり、ほとんどの企業はICTに関してはすべて自前で用意しているということだ。つまりこれが、自家用車にあたる。

 それに対し、クラウドは他人のコンピュータ資源を使い、アプリケーションもその企業が提供するテンプレートをカスタマイズする程度のものを利用し、貴重なデータ、ネットワークもすべて、その企業にお任せだ。リスク管理、セキュリティに関してもある程度、事前の説明はあるものの、それも業者任せとなる。

 自家用車の購買から、運転主の手配、運転手の教育からレベル向上、自家用車の保守、メンテナンスに至るまで、すべてクラウド事業者に一任することになる。それはまるで、社有車を使わずに、通勤電車で通うのといずこか似通っている。ほとんどの企業は自社の所有するコンピュータの機能や性能を目一杯使い切ることなどない。よく使っている企業で、通常その性能の一割程度を利用するにすぎないケースが大半だ。

 なぜそのようなことになるのか。数少ないCPUパワーと記憶容量を多くの人数で共有するのだから、主要業務を処理する繁忙期でも、主要業務処理に遅延が起こらないようにリソースにかなり余裕を持たせているからだ。これはある意味当然だ。

 しかし、これは、結果として、非常に大きなコスト増を招く。会計業務と現場での処理系、技術部門のニーズ、窓口事務の処理系、バックヤード系、経営企画に携わる人達が求めるシステム、Web系、EC系ではそれぞれ、求めているコンピュータ像が異なっている。結局、情報処理部門の人たちは、彼らのニーズをくみ取ることを諦め、自らが直接関与するのは「基幹系」と一般に呼ばれているシステムに限られてしまった。

 そのほかのシステムは、現場のニーズにより、ほとんど関与しないか、関与しても一部にとどまる結果となる。それは、あたかも、工場や倉庫のような物流部門が使用するトラック、営業部門が使用する商用車、本社の総務部が管理する役員用の高級乗用車とお互いの縄張りに従い、それぞれの好みで調達が行われているのに似通っている。

 これがわたしが展開する自家用車理論だ。これに対し、仮にどのようなアプリケーションにも対応できるプラットフォームが仮想的に提供され、それも、自分たちの好きなようにカスタマイズできるとしたらどうだろう。しかも、セキュリティが万全とはいえないまでも、ある程度のレベルが保たれていたら。もちろん、自分たちの所有物ではないのである程度の制約はあるが、現在の自分たちが置かれた立場を考えて満足できるレベルならそちらに走るのは至極当然――。これがクラウドのコンセプトだ。

 誰もが使え、しかも快適で、高速という観点から「快適な通勤電車」と評したのはそれを表したつもりだ。

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