“心の風邪”では片付けられないうつ病をどう乗り越えるか自殺者を1人でも減らしたい(2/3 ページ)

» 2009年06月27日 07時30分 公開
[國谷武史,ITmedia]

社員の悩みは会社のリスク

 近年、相談が増えている業種がIT関連や製造である。IT関連企業ではプロジェクトのカットオーバーに対する周囲の圧力や、他社に常駐していることで人間関係が希薄になってしまうことなどが引き金となり、うつ病に至ってしまうケースが多いという。

 「予算や納期に追われることで自責の念に駆られたり、仕事自体にのめり込んでしまったりする人も多い。深夜遅くまで働くなど長時間労働が続くだけでなく、帰宅してもインターネットやゲームを楽しむ人も多いため、体を休める時間がまったくないようだ」と山崎氏。

 製造系企業の50代の幹部社員は、部下の指導方法について悩みを抱えていたという。かつては先輩社員の技を盗んで体得せよという指導方針だったが、自身が指導する立場になると若い後輩社員がついてこない。その結果、休職を余儀なくされるほどの深刻な事態になってしまった。

 うつ病にまで至ってしまった場合、山崎氏は本人ばかりではなく、家族や同僚、企業の人事担当者までも巻き込んでしまうケースが多いと指摘する。周囲の人間も本人に対してどのように接すべきかについて悩み、常に気をつかってしまう。「特に人事担当者は本人の復帰後も含めて対応しなくてはならず、大きな負担を抱えてしまう。人事担当者もうつ病になってしまい、休職してしまうケースもある」(山崎氏)

 うつ病を軽い病気だと安易にとらえる企業経営者も多く、適切な対応を取らなければ悩みを抱える社員を自殺に追い込む危険もある。その結果、悩みの原因が職場であれば企業には安全管理義務の責任を問われてしまう。遺族が労災認定を求めて訴訟に起こす事例も多く、企業側の責任が適切に果たされていないことが明確になり、多額の補償金を支払うケースも多い。

 こうした状況を受けて、近年は大企業を中心に産業カウンセラーを配置するケースも増えつつある。しかし、相談者が「人事考課に影響するのではないかと懸念したり、相談内容によって適切なアドバイスができなかったりするケースもあり、十分に機能していないという課題を抱える。

 同社でも当初は相談者のプロフィールを確認していたが、会社に報告されるのではないかという懸念に配慮して、相談者が明らかにするまで尋ねない。相談内容は企業経営や犯罪を助長するようなものを除いて制限しておらず、可能な限りアドバイスや解決手段を提供するようにしているという。

 例えば従業員の家族から「子供のオムツはどの製品がいいか」という相談もあった。母親の立場では知人に尋ねづらい悩みであるものの、同社ではそうした心配をせずに、気軽に相談できる環境を目指してしているという。

 「幸いにもさまざまな人生経験を持つ人々が支援してくれるようになり、日常生活に関するものから法的に対処しなければならないものまで、さまざまな相談に答えられるようになった」(山崎氏)

 寄せられた相談やアドバイスした内容は、週一回のミーティングでカウンセラー同士が共有するようにしており、対応者が異なった場合でもスムーズに相談を受けるようにしている。

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