ライバルも協調! クラウド時代のID管理Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年06月29日 09時12分 公開
[松岡功ITmedia]
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IT業界のライバル同士が協調姿勢を示す理由

 カンターラ・イニシアティブが発足したことで、世界的に利用されている3つのID管理技術の相互運用性がさらに高まる方向となった。

 ここで注目されるのは、この動きにIT業界のライバル同士が協調姿勢を示している点だ。例えばSAMLを推進してきたLiberty Allianceには、Oracle、Sun Microsystems、NEC、NTT、France Telecomなど150社以上の企業が名を連ねている。

 SAMLはすでに企業向けシステムにおけるID管理のデファクトスタンダードになっており、さらにGoogle AppsやSalesforce.comでも採用されていることから、今後はSaaS分野での普及も見込まれている。

 また、OpenIDはGoogleやIBM、Microsoft、VeriSign、Yahoo!などが採用しており、特にブログ、SNS、ポータルサイトなどのコンシューマー向けWebサイトでの利用が広がっている。

 そしてInformation Cardは、MicrosoftがWindows OSに適用しているID管理方式で、一般的には「CardSpace」と呼ばれているものだ。

 端的に言えば、SAMLがエンタープライズ系、OpenIDがWeb系、Information Cardがデスクトップ系といったところだ。それぞれに歴史的背景があり、これまでは対立した構図で勢力争いを繰り広げてきたが、ここにきて相互運用性を実現すべく協調姿勢が明確になってきた。その流れを加速させて、さらなるID管理技術の普及拡大につなげようというのが、カンターラ・イニシアティブの大いなる目的である。

 その背景にあるのが、クラウドコンピューティング時代の到来である。将来的には、ほとんどの企業において複数のクラウドと社内システムを有機的に連携させて活用することが求められるようになるだろう。そうした環境において不可欠なセキュリティ基盤の中核となるのがID管理である。したがって、複数のID管理の相互運用性がいかに重要であるかは容易に想像がつく。IT業界のライバル同士が協調姿勢を示しているのは、そのためだ。そのサマは決して呉越同舟ではなく、必然といえよう。

 とはいえ、カンターラ・イニシアティブの会員名簿には、今のところIBM、Google、Microsoftといった企業名はない。この点について高橋氏はこう語った。

 「もちろん参加を募っていきたいが、会員団体を通じて活動に参加することもできる。例えばMicrosoftならInformation Card Foundationを通じて参加できる。さらにカンターラ・イニシアティブの核となる分科会活動は、会員にならなくても自由に参加できる」

 まさにオープンコミュニティーである。ちなみにカンターラ(kantara)とはスワヒリ語で「橋」を意味する言葉で、その語源はアラビア語で「調和」を意味するという。同団体の目指すところを、ストレートに表現した格好だ。

 こうした発想を、これから起こりうるクラウド間の連携やアプリケーションの連携における相互運用性の問題にも適用できないものか。標準規格をむりやり絞り込むより、そちらに注力したほうがよいのではないか。ID管理という特性はあるにせよ、そうした意味からもカンターラ・イニシアティブにはぜひ大いなる成果を出してもらいたいものだ。

プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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