出会いと縁を大切にする、東洋的キャリアの築き方オルタナティブな生き方 大里真理子さん(3/3 ページ)

» 2009年07月14日 11時30分 公開
[土肥可名子,ITmedia]
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 1992年当時の中国は、まだまだ発展途上の国。こんなことならアメリカ企業からのオファーを受ければよかったと後悔しましたが、新規事業の立ち上げに参画するチャンスはそうそうないので、ここが正念場とふんばりました。

 北京からさらに地方の武漢へ転勤し、2年間中国生活を送りました。中国独特のビジネス習慣には苦労しました。それでも後半には中国人の部下たちともコミュニケーションが取れるようになり、やっと仕事が面白くなってきた。そんなとき、中国経済の大きな変化の波に翻弄(ほんろう)されて、事業が大失敗。やむなく帰国することになりました。

 帰国後は降格になり、会社では針のむしろ。初めて体験する挫折でした。生まれてはじめて、周囲の人が誰もわたしを認めてくれない環境に身を置きました。でも、今辞めたら負け犬になると、意地でも辞められなかった。

 失敗を取り返そうと、前より頑張る。でもそういうときって、その頑張りが悪い方向に流れてしまうんですよね。何をやってもうまく行かないと独りでキリキリ舞いするわたしに、ある人が「じっとしている時期も必要だよ」とアドバイスをくれました。

 じっとしていると見えてくるものもあるんですよね。潮目が変わるときも必ず来る。自分が動くと自分がやりたいことしか考えられないけれど、じっとしていると相手がやりたいことが見えてくる。相手がやりたいことを実現することが仕事では非常に重要だと骨身に染みて理解できました。相手の要望を実現する手伝いをして、信頼を取り戻して行きました。

 しばらくしてIT関連の新規サービス立ち上げに成功して、成果を出すことができました。自分にも一区切り付けることができたので、その後、先に辞めていた中国時代の上司に誘われて、ベンチャーの立ち上げに参画するため退職しました。

無理をしない。“縁”を大事にするマリコ的キャリアの築き方

 若いときの自分は使えないヤツでした。勉強はできたし、1つひとつの仕事はできたかもしれないけど、組織で動く能力が決定的に欠けていました。上司にとっては、非常に使いにくい部下だったのではないかと思います。

 組織が見えなかったんですね。マクロで見られないから、自分の仕事がその先どういう風につながっていくのか想像できない。だから、上司から見ると無駄なこともたくさんやっていたと思います。まぁ、新入社員なんて、最初はみんなそんなものですけどね。

 「勉強ができる=仕事ができる」わけじゃないんですよね。わたしたちの時代に企業が体育会系の人材を採用したがっていたのは、彼らは組織を分かっているから。勉強は個人プレーですが、仕事はチームプレー。わたしは和を乱すタイプではなかったけれど、チームプレーを知らなかった。見よう見まねでできるほど、勘も良くなかったし。

 社会人として経験を積んだ今、若い人と接していて「ああ、この子見えてないなぁ」と思うこともあります。でも当時のわたしは、もっと見えてなかっただろうなぁ(笑)。

 わたしは“出会い”と“縁”に恵まれました。人さまの言葉に素直に耳を傾け、与えられた縁を大切にして一生懸命働くことだけは、誰よりも頑張ってきました。だから結果的にいい選択をして来られた。人の言葉に素直に耳を傾けることは、いい“縁”を招き、いい“気付き”を生むんですね。

 時代が厳しいせいもあって、今の学生はキャリアについてよく考えています。自分は何をやりたいのかとか、そのためにはこういう仕事を選ばなきゃとか。さらにそれらをアメリカ流にアピールしないと、というプレッシャーも感じているようで、ちょっと苦しそうに見えることがあります。

 でもね。もう少しゆるく考えてもいいんじゃないかな。自分のやりたいことなんて、分からなくて当たり前だと思うんですよ。だって大学に入ったばかりで分かっていることって、少ないですよね? 自分の意志で決めようにも、インプットが少なければ選択肢だって当然少ないんです。幼稚園のときに自分のキャリアを決めようと思ったら、警察官かお医者さんか宇宙飛行士、あとはパン屋さんにケーキ屋さんくらいしかないじゃないですか。

 だったら無理をしないで、自分より経験豊富で知識もある周りの人の言葉に素直に耳を傾けて、力を借りてみてもいいんじゃない? 今は何がやりたいのか分からなくても、前に進みながら考えていけばいいし、ときには流されてみるのもいいと思うんです。やってみてはじめて分かることだってありますから。そうやって選択肢を増やしていけば、いいんです。そのかわり巡り合った縁は精いっぱい大切にして頑張る。

 アメリカ的な環境でキャリアを築いてきましたが、わたし自身は極めて日本的な「人事を尽くして天命を待つ」気持ちで、人の言葉に耳を傾け、出会いや流れ、縁を大事にしてきました。それが結果的に良い“たまたま”を引き寄せてくれたんだと思います。

 若い人にも、こういうキャリアの築き方があることを知ってほしいな。成功したかどうかは分からないけれど、少なくともわたし、いま幸せだもの。

大里真理子さん 人の言葉に耳をかたむけて、流れに身をまかす。そんなキャリアの築き方もあって良いと思います(大里さん)

大里 真理子氏 プロフィール

大里 真理子

(株)アークコミュニケーションズ 代表取締役社長

翻訳/ローカリゼーション、Web/クロスメディア制作、人材派遣/紹介の会社を経営する傍ら、翻訳家としても活躍中。近訳書はシナジー・マーケティング(ダイヤモンド社)

また、スキーオリエンテーリングで、オリンピックに出ることをひそかに企んでもいる(現在、世界選手権大会日本代表補欠)。

翻訳・キャリアなどをテーマに大里氏の素直を考えをつづる『マリコ駆ける!』は、ITmedia オルタナティブ・ブログでも人気のブログである。


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