監視カメラ社会の行き着く先は?会社に潜む情報セキュリティの落とし穴(3/3 ページ)

» 2009年07月21日 07時10分 公開
[萩原栄幸,ITmedia]
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監視カメラ社会の行き着く先

 監視カメラの運営そのものが法的体系に立ったものとし、運用体制が二重三重にチェックがされるものなら、犯罪の検挙率を高める有効な方法の1つかもしれません。ただし、顔認証や住民台帳基本番号、Nシステムなどのプライバシー情報と密接に関係するようになると、恐ろしい世界になります。

 今自分がどこにいるのかなど、一部の役人が国民全員の所在を瞬時に知ることも不可能ではありません。自分の行動や会った人々などをすべて明らかにしてしまう究極の武器を監視者に持たせることになってしまいます。

 最後にこうした心配の一部が現実に起きかねないケースを2つ紹介しましょう。

 1つは、2001年1月30日にフロリダ州タンパで開催された第35回スーパーボウルでのケースです。タンパの警察は、観客のほぼ全員の顔画像を入口の手前で撮影していました。同時にその画像はデジタル処理をされて警察のセンターで照合されていたのです。観客に対して事前に撮影の告知がされず、一部のプライバシー擁護団体からは抗議が起きました。

 10万人以上のデータを照合し、この中から19人の犯罪者を逮捕できたと警察は自慢していましたが、内訳はスリやダフ屋などでしかなかったといいます。プライバシーと治安、セキュリティ対策をどこまで講じることが合法なのか、このケースでは大きな議論が展開されたようです。

 もう1つは、2008年10月のニュース記事です。米国の一部空港に導入された「全身が透けて見える搭乗検査装置」を欧州でも導入を検討しているというもので、わたしはテレビで米国の検査装置を見ましたが、本当に丸裸になってしまい、自分がこの装置にかけられるのはさすがに恥ずかしいと思ったものです。

 この装置で自分の全身が映るのだとして、その画像が万が一流出して、売買されるようになった本人はどう感じるのでしょうか。特に若い女性なら、少なくともパスポートや搭乗券も同時に確認されていると、名前を明かして裸になるのと同じようなものです。苦痛に感じる人がいるのではないでしょうか。

 今ではスパイ衛星の画像から1メートル程度の物体を認識ができますし、Google Earthやストリートビューなど、ほんの10年前には考えられなかった機能が誰でもが簡単に使える時代です。これらが悪用されたらいったい世の中どうなってしまうのでしょうか。監視カメラは、有名な小説「1984年」の状況になってしまう危険性も併せ持つ、表裏一体の存在なのかもしれません。

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萩原栄幸

株式会社ピーシーキッド上席研究員、一般社団法人「情報セキュリティ相談センター」事務局長、コンピュータソフトウェア著作権協会技術顧問、日本セキュリティ・マネジメント学会理事、ネット情報セキュリティ研究会技術調査部長、CFE 公認不正検査士。旧通産省の情報処理技術者試験の最難関である「特種」に最年少(当時)で合格した実績も持つ。情報セキュリティに関する講演や執筆を精力的にこなし、情報セキュリティに悩む個人や企業からの相談を受ける「情報セキュリティ110番」を運営。「個人情報はこうして盗まれる」(KK ベストセラーズ)や「デジタル・フォレンジック辞典」(日科技連出版)など著書多数。


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