プライベートクラウド

パブリック、プライベート、オンプレミスが混在する世界システム構築の新標準(2/3 ページ)

» 2009年08月06日 08時00分 公開
[谷川耕一,ITmedia]

プライベートクラウドの優位性

 パブリッククラウドのメリットを生かしつつ、デメリットを克服できるのがプライベートクラウドだ。プライベートクラウドは、自社所有のデータセンターなどにクラウドコンピューティング環境を導入し、自社あるいは自社グループで占有して利用する。プライベートクラウドを、将来的なパブリッククラウドへのステップととらえる向きもあるが、むしろ今後主流となる企業ITシステムの新形態と考えるべきであろう。

 プライベートクラウドでは、仮想化技術を駆使した柔軟で俊敏性の高いIT基盤をクラウドコンピューティング環境として用意する。これは少し前のキーワードのグリッドコンピューティング、ユーティリティーコンピューティングとほぼ同じだ。これを自社専用の環境として用意し、ユーザーの要求に応じて柔軟にITリソースを提供する。マルチテナンシーではないので、圧倒的なコストメリットを発揮するのは難しいが、目的ごとにサイロ化した無駄の多いシステム環境を解消し、ITリソースを有効に利用できるメリットがある。

 プライベートクラウドにもパブリッククラウドと同様、俊敏性のメリットがある。一度仕組みが出来上がれば、ユーザーの要求に応じてすぐにIT環境を配布できる。パブリッククラウドのデメリットとして挙げられていた各種セキュリティなどの不安にも、自社専用環境なので容易に対応できる。独自のセキュリティの仕組みを組み込むこともできるのだ。

2つのプライベートクラウド

 プライベートクラウドには、大きく2つの種類がある。1つは、Amazon EC2やMicrosoft Azureなどのようなプラットホームを提供するものだ。ITシステムの研究開発部門での利用や、システムインテグレーターなどが顧客ごとに開発環境を用意する必要がある場合に効果が高い。ECサービスでトラフィックに季節変動があり予測しにくいピーク処理に対応したいときにも、リソースを動的に追加するなどの方法で柔軟に対処できる。

 もう1つの形態が、ユーザーにサービスを提供するものだ。こちらは、SaaS型のサービスを自社専用に用意するイメージだ。例えば、世界中の多くの拠点でビジネスを展開するグローバル企業では、会計や人事などの基幹業務を拠点ごとに処理するのではなく、どこか1カ所に世界中の業務をカバーするシェアードサービスセンターを設置すると効率が良い。

 このシェアードサービスセンターの仕組みを、クラウドコンピューティング技術で構築すれば、サービス型のプライベートクラウドが出来上がるのだ。

 この場合は、できれば1企業内だけでなく、グループ内の複数企業で利用すればマルチテナンシー効果が出て、コストメリットが大きくなる。取引先などの関連企業にも一部サービスを公開することで、より迅速で正確な取引環境が実現する。将来的には、プライベートクラウドが業界内クラウドなどに発展する可能性もある。

 前者のプラットホーム型としては、米HPや米IBMなどの大手ITベンダーが自社の研究開発部門などで利用するIT環境をプライベートクラウドで実現し、効果を上げている。単に仮想化したサーバリソースだけでなく、データベースやJavaの実行環境なども、申請すればすぐに手に入れられるようになっている。従来のように個々にサーバを購入しセットアップする無駄も減り、時間とコストの大幅な削減がなされている。

 サービス型の成功事例としては、Oracleのシェアードサービスセンターが有名だ。Oracleには、世界中に散らばる145カ国に上る拠点がある。各拠点は全世界で共通の1つのシェアードサービスセンターに基幹系業務を集約し、共通のシステム基盤を活用してグローバルで標準のプロセスに沿って業務を展開している。シェアードサービスセンター化により、Oracleでは世界で年間1000億円規模のコスト削減を実現している。

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