ERPの境界線アナリストの視点(2/2 ページ)

» 2009年08月25日 11時30分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]
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中堅・中小企業固有の導入プロセスが背景に

 大企業と中堅・中小企業のERP導入について、重要なポイントを3つ挙げた。これらの違いを明確に理解するには「中堅・中小企業がどのようにしてERP活用に至ったか」といういきさつを知っておく必要がある。

 中堅・中小企業におけるERPの歴史はオフコンの時代にまでさかのぼる。当時、ユーザー企業ごとに作り込んだ会計システムなどは、地場のシステムインテグレーターや販売会社のオフコン上で運用されていた。全社最適という視点を欠いていた中堅・中小企業は、情報システム部門の設置率が低く、販売/購買/生産管理などのシステムを必要に応じて開発していった。その結果、異なる仕様のシステムが混在する環境ができあがった。

 大企業と同様にこの段階でBPR(業務プロセス再設計)に踏み切った一部の中堅企業(主に年商300億〜500億円の中堅上位企業)は、ERPを早期に導入した。この流れは大企業の場合とほぼ同じと考えていい。一方、多くの中堅・中小企業は開発したシステムごとに「脱オフコン」を進めることになった。これが、PCを主体としたクライアント/サーバ形態の基幹系システムパッケージの導入を推し進めた。

 中堅・中小企業では「異なる複数の基幹系システムパッケージを導入している状態」が非常に多い。そうなると、システム間のデータ連携が難しくなる。そのため、「相違点2」で挙げた手作業が多くなってしまうわけだ。品質面の課題で「似たようなデータが散在しており、データ間の整合性が取れない」ことが二番目に挙がっていることも、基幹系システムパッケージ間のデータ連携が課題であることを裏付けている。

 中堅・中小企業におけるERPの導入は、大企業のようにBPRを伴うものではなく、会計/購買システムのデータ連携といったシステムレベルでの改変が多い。そのため「相違点1」のように案件の成功率が高く、ERPと個別の基幹系システムにおいて差は生じない。

 総じて、中堅・中小企業は「データ連携によって基幹系システムを使いこなす」という初期段階を達成できていない状態だ。これはERPの導入が一巡し、業務プロセスの変化に対応するという次の課題に取り組んでいる大企業とは対照的である。「相違点3」において、コンプライアンスよりも業績の向上をシステムの刷新理由に挙げるユーザー企業が多かったのは、上場や海外拠点の問題だけでなく、ユーザー企業自身が基幹系システムの効果を十分に享受できていないことを自覚しているからともいえよう。

カギは「テンプレートの活用」と「システム間連携」

 こうして見ると、中堅・中小企業が抱えるERP導入の課題を解決する有効な施策は、「異なる基幹系システム間の連携を手軽に実現すること」であると分かる。とはいえ、大企業向けと同じようにシステムを俯瞰的にとらえ、互いを疎結合で結ぶような手法を取るのは、ユーザー企業にとって負担が大きい。SOAほど高度ではないにせよ、何らかの手法が必要になるだろう。

 一部のベンダーでは、「ハブ&スポーク型」のような形態で複数のシステム間のデータを連携する工夫や、会計システムを核に他システムを連携する試みが見られる。システム間の連携を手軽に実現できるソリューションの重要性は、今後も高まっていくだろう。

 また、カスタマイズを多く加えることもシステム間連携の手法の1つだが、コスト面が障壁となる。想定しているシステム形態をパターン化し、多大な工数を掛けずに適用できる「テンプレート」の充実も求められる。

 「システム間の連携」において、大企業と中堅・中小企業が抱える課題は同様といえる。だが、ERP活用という観点では、過去のいきさつからも分かるとおり、両者には大きな隔たりがある。システムの連携に求められる手法や手段も異なってくることに留意しておく必要がある。

 近い将来、中堅・中小企業が無理なく取り入れられるシステム間の連携手法が登場することを期待したい。

著者紹介:岩上 由高(いわかみ ゆたか)

ノークリサーチ

ノークリサーチのシニアアナリスト。早稲田大学理工学部大学院数理科学専攻卒。ジャストシステム、ソニー・システム・デザイン、フィードパスなどを経て現職を務める。豊富な知識と技術的な実績を生かし、各種リサーチ、執筆、コンサルティング業務に従事。著書は「クラウド大全」など。


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