クラウドコンピューティングサービスへの参入を正式表明したサン・マイクロシステムズ。「The Network is The Computer」というビジョンに沿い、持ち前の技術力でクラウドの土台を磨いてきた同社による戦略が「Open Cloud Innovation Forum」で語られた。
6月25日に「Open Cloud Innovation Forum」を開催したサン・マイクロシステムズ(以下、サン)。同社の技術へのこだわりとオープン性がクラウドコンピューティングといかに混合するのか、また企業がクラウドを使いこなすには何が必要か、について語られた。
「クラウドこそ、サンがこれまで戦ってきた世界だ」――サンの河村浩明社長は、同社のビジョンである「The Network is The Computer」を講演のタイトルに掲げ、このように強調した。
高速ネットワークの普及で、クラウドコンピューティングの利用環境は整った。河村社長はこの変化を米国の電力業界に例えて説明する。「100年前は企業が自社の発電機で電力を作っていた。中央発電所が作られてからは、電力が各企業に送られるようになった。何の不自由もなく電力が使えるのは、こうした歴史があったからだ」(同氏)
「同じことがIT業界でも起きている」と河村社長は指摘する。そのパラダイムシフトは、ITインフラを自社で持たずに、外部リソースをサービスとして利用できるクラウドコンピューティングが巻き起こしている。「クラウドの市場規模は全世界で約15兆円に上る」(同氏)
河村社長は「ネットビジネスを起こす場合、ヒト・モノ・カネが必要だった。クラウドでこれらへの依存性が減り、アイデアや勇気があればビジネスにつなげられる」と話し、APIの標準化に基づいたオープンなクラウド環境の整備を進めるとした。
河村社長に続いて登壇したのは、サン ビジネス開発営業本部本部長 クラウドコンピューティング統括責任者を務める中村彰二朗氏。講演のタイトルは「Trusted OPEN Green Cloud」。そこに込められた「信頼性」「オープン」「グリーン」というキーワードこそ、サンが目指すクラウドの未来像だ。
クラウドの利点は、サービスを低コストで早く使えること。反面、混在環境に対する企業の不安は高まっているという。「サンはこの課題を解決する取り組みを続けてきた」と中村氏。「OSレベルでのセキュリティにこだわり、独自のオープンなプロセッサやAPIを開発する。電力削減が図れる仮想データセンターも展開する」(同氏)。オープンなクラウド環境を構築し、企業全体に行き渡るガバナンス体系を作り、それらを仮想化環境で柔軟に利活用できるようにするのがビジョンだ。
「企業向けのクラウドは発展途上。日本企業もグローバル規模のクラウド環境を構築できるチャンスだ。スタートは早いほうがいい」と中村氏は話し、国内企業に奮起をうながす形で講演を終えた。
基調講演後に行われたのは「あるべきクラウドの姿とは」と題したパネルディスカッション。パネリストには基調講演を務めたサンの中村氏に加え、アクセンチュア 公共サービス本部 シニアエグゼクティブの後藤浩氏、インターネットイニシアティブ 専務取締役 営業本部長の保条英司氏が登壇。コーディネーターはガートナー リサーチITインフラストラクチャ バイス プレジデント兼最上級アナリストの亦賀忠明氏が務めた。
亦賀氏はこの1年の状況を「先行ユーザーは何らかの取り組みを始めた一方、“流行りモノ”としか考えていないユーザーもおり、温度差がある」と振り返る。こうした現状に対し保条氏は「Googleなどのクラウドをそのまま採用してもコストは下がらない。技術や運用のシステムを考え直すべき」と返した。
「企業のIT投資が変動する」と指摘したのは後藤氏。初期コストを抑えつつ、既存システムと比較して数十倍のスピードで情報システムを立ち上げられる点をメリットとし、「5年後には30〜40%のシステムがクラウド上で動くと想定し情シスの青写真を描くべき」とメッセージを送った。
クラウドの整備に当たり解決すべき問題を、中村氏は「距離感」と表す。これはデータを外部に置くことに対する慣れと言い換えられる。「“データセンターは近くにないと”という不安を克服し、外に預けても大丈夫と考えることが重要」(同氏)
クラウドと企業をつなぐものとして「プライベートクラウド」がある。これは自社やグループ企業などに限定された情報システムを統合し「クラウド化」する考え。その効用やトレンドを紹介する「クラウドビジネストラック」も、同イベントで開催された。
まずは伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)が、「プライベートから始めるクラウドへの攻めのアプローチ!」と題し講演。企業はプライベートクラウドの構築から始めるべきと主張した。
それにはまず、システムごとに求められるサービスレベルを整理したり、システムを統合したりする工程が必要になる。結果、インフラの運用部門やシステム構築部門に分掌ができ、担当ごとの負荷削減につながるからだ。
「プライベートクラウドはコスト削減や業務効率化といった命題に応えるとともに、パブリッククラウドの活用に備えられる」と主張する。
続くセッション「クラウドコンピューティングがもたらす新たなパラダイム」でも、企業とクラウドコンピューティングの関係性に話題が及ぶ。
スピーカーを務めた新日鉄ソリューションズがキーポイントだと示すのは「標準化によるモビリティの実現」。これはクラウドを支えるデータセンター間で、アプリケーションの移動と稼働を自在化する考えだ。実現すれば、クラウド関連の技術やサービスの「ベンダーロックイン」からも解放される。
「各ベンダーは、クラウド時代に見合ったサービスインテグレーションを提供すべき」(同社)
クラウドコンピューティングを議論する上で外せないのがSaaSだ。パネルディスカッション「拡大するSaaSビジネスとクラウドとの接点」では、SaaSとASPの違い、SaaSビジネスの動向などが解説された。
またクラウド時代に企業が考慮すべきことというテーマでは、パネリストとして登壇した東洋ビジネスエンジニアリング、オープンソース、応用電子、日本オラクルの4社が「クラウドで情報システムを100%作るのは不可能であり、パブリックとプライベートの併用が現実解」と結論付けた。
クラウドビジネストラックの最後を飾ったのは「オープンガバメントクラウド・コンソーシアム(OGC)のミッション」と題したパネルディスカッション。CTC、プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(PwCC)、TISの3社が集った。OGCは、国内におけるクラウド環境の整備を基にIT環境の向上を目指す団体で、6月に設立されたもの。
議論のテーマがOGC設立の目的でもある「人材育成」に及ぶと、CTCは「政府向けのクラウドサービスを作ることで、新たなビジネスモデルや技術にチャレンジできる」と効用を説いた。「コンピュータの基礎を知っている人が増えて欲しい」と語るTISも同じ論調に。今後求められるエンジニア像として「技術、サービスそれぞれに特化した人材」を挙げた。
PwCCは「エンジニアは労働集約型でAPIやミドルウェアを別個に作ってきた。OGCではこれらを連携させられる」とし、クラウドコンピューティングが従来のエンジニアの働き方の枠を超える役割を担うと指摘した。
クラウドビジネストラックに並行し開催されたクラウドテクノロジートラックでは、クラウド上で提供されるサービスの基盤を支えるサンの技術的取り組みが、複数のセッションに渡り取り上げられた。
口火を切って登壇したのはサン。同社はまず、パブリックとプライベートに加え、その“いいとこ取り”ともいえる「ホステッドプライベート」というクラウドモデルを提示する。
その定義は「パブリッククラウドの中で共用されていないリソースを割り当てるプライベートクラウド」というもの。それを支えるアーキテクチャとして、オープンなAPI、ハードウェア投資を抑えつつ可用性と拡張性を高められるStorage Service、フィジカルなデータセンターをクラウド寄りとしたVirtual Data Center(VDC)、そしてAPIないしVDC経由で管理でき、プロセッサやストレージなどのリソースを動的に割り当てられるアプリケーション稼働環境のCompute Serviceを紹介した。
手元のPCから稼働環境を構築するデモも実施。VDCを通じ、GUI上のドラッグ&ドロップ操作だけでサーバやネットワークが構築され、利用可能になる様子が示された。
続いて、「サン クラウドストラテジックプランニングサービスのご紹介」というタイトルでサンからの講演者3名が登壇した。
現状クラウドが活用されている分野は、Webホスティング、SaaS、データストレージが中心だという。今後、エンタープライズ分野での利用が拡大するには、「トランザクション処理が中心のアプリケーション運用における信頼性が課題」と指摘する。
ユーザーが抱える不安は3つ。(アプリケーションの)拡張性、安定性、セキュリティの確保である。これらの不安を解決する手段として、Amazon EC2でも採用された2つの製品が取り上げられた。高可用性をもたらす仮想化型の統合プラットフォーム「GigaSpaces XAP」および、低コストで運用できるアプリケーションデリバリコントローラ「Zeus Extensible Traffic Manager(ZXTM)」である。
拡張性に対する不安については、GigaSpaces XAPによりアプリケーションを並列化したり、ZXTMでオンデマンドにロードバランシングしたりすることで解消できる。安定性についてはGigaSpaces XAPのSLAコンテナを利用しデプロイするアプリケーション単位でSLAを定義できるし、ZXTMを通じリクエストデータの検査、修正、ルーティングを行うことでセキュリティも担保できる。
ほかにも、インメモリによる高速トランザクション処理で「株価Excelにリアルタイム表示」するデモや、Solarisコンテナとhadoop(Googleが採用する大規模分散処理フレームワークをベースにしたオープンソース実装)の組み合わせ事例などが紹介され、サンはクラウドのライフサイクル全般にわたるサポートを聴衆に改めて表明し、セッションを締めくくった。
続いての講演ではサンにより、クラウドにおけるデータ格納の解として「Sun Cloud Storage Service」が提示された。同サービスは、WebDAVによるファイルベースアクセスおよびAmazon S3 APIによるオブジェクトベースアクセスの双方をサポートした、スケーラブルなネットワークストレージである。
「ストレージ分野には、ベンダーによる縛りや遅い技術革新、データ増大に伴うコストの増大といった課題がひしめく」とサンは指摘する。その上で、課題を解決するサンのストレージ戦略を「Open Storage」として示す。
Open Storageに基づいたサンのストレージ製品(およびサービス)は、業界標準のハードウェアとOSSの組み合わせによる高い拡張性と低いTCO(Open Architecture)、オープンソースコードとAPIにより世界中の開発者のリソースを具現化(Open Software)、既存ストレージ環境とのヘテロな接続性(Open Interoperability)といった共通の特徴を備えるという。
サンはこれらを根拠に「開発者にはストレージサービスを開発できるパワーをもたらし、企業にはストレージサービスを10分の1のコストで提供することを約束する」と強調した。
テクノロジートラックの最後となるセッションのタイトルは「サン オープンソフトウェア ワールド」である。
「OpenSolarisはクラウド構築に最適」と切り出すサン。最新の技術を短いサイクルで実装していくOpenSolarisは、(Solarisの)壮大なβプログラムともとれるという。今のOpenSolarisが、次期Solarisとして登場する日も近いと期待をあおる。
また、登壇したサンのエヴァンジェリストは、「わたしのセッションでは、3つのキーワードだけを覚えて帰って欲しい」と切り出す。その3つとは、クラウド環境におけるシングルサインオン連携を可能にする「Open SSO Enterprise Server」、LAMPの“M”として認知される「My SQL Enterprise Server」、そしてWebシステムの構築に必要な製品スタックの「Glass Fishポートフォリオ」である。
「サンのポートフォリオは全て“クラウド対応”だといえる。Amazonでの利用を始め、事例も豊富だ」(サン)とし、すでに実績あるクラウドソリューションとして聴衆にアピールした。
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