ASP・SaaS白書にみるクラウド市場の新勢力Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年08月31日 06時09分 公開
[松岡功ITmedia]
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異業種参入がクラウド市場の新たな勢力に

 一方、事業者動向としては、2009年6月時点で、国内でASP・SaaSを提供している事業者数は約1500、提供されているサービス数は約3000と、ASPICでは推定している。

 ASP・SaaS事業者のサービス提供業種をみると、製造業、情報通信業、卸売・小売業への提供割合が高い。さらに詳細にみると、基幹業務系アプリケーション分野においては、CRM、営業支援、販売支援・管理、受発注システム、給与計算などを提供する事業者の割合が大きい。また支援業務系アプリケーション分野では、文書管理、メール配信・アドレス帳管理、情報共有支援をサービス提供する事業者の割合が大きい。

 事業者のASP・SaaSの年間売上高(2007年度実績)は、全事業者の約50%が5000万円未満、約30%が1〜5億円、約20%が5億円以上。概ね5000万円未満と1億円以上とで事業者数が二分される傾向にある。また2007年度でみると、売り上げ増の事業者数が約70%に達している。

 さらに、約80%の事業者がすでに他社と連携しており、さらなる強化を志向している。連携の内容は、アプリケーション間の技術連携(約45%)に留まらず、アプリケーションとプラットフォーム間の技術連携(約40%)、販売連携(約35%)など多岐にわたっている。

 さて、この事業者動向で筆者が注目したのは、ASP・SaaSに新規参入した事業者のうち、全体の半数近くはASP・SaaSを除くICT分野からだが、約30%がICT分野以外からという調査結果だ。後者にはサービス利用者からの移行組も含まれる。

 ASPICによると、利用者の勘所を押さえたノウハウを積み上げてASP・SaaS事業に新規参入し、競合他社との圧倒的な差別化により顕著な成功を収めている一般事業者も出始めているという。つまり、異業種参入がクラウド市場の新たな勢力になりつつあるのだ。

 先週25日、日本オラクルが開催した「Oracle Database Summit」で、クラウドをテーマにユーザー企業によるパネルディスカッションが行われた。その詳細については関連記事を参照いただくとして、その席でパネラーの1人が語ったコメントが印象深かった。

 「クラウドの有効活用法については、ぜひベンダーにもより良い提案をお願いしたい。だが、既存のベンダーにとってクラウドは、儲からなくなる構造になるので、果たして期待できる提案が出てくるかどうか。そう考えると、クラウド市場ではベンダーサイドのプレーヤーの顔ぶれが大きく変わるのかもしれない」

 異業種参入がクラウド市場の新たな勢力になりつつあるのは、この見方と同根だろう。既存のベンダーにとってクラウドは、まさしくサバイバルの「ふるい」にかけられていることを意味している。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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