コラム
» 2009年09月07日 14時38分 公開

職場活性化術講座:知識創造的なコミュニケーションとは

世の中全体が不安定な状況下で、コミュニケーションの重要性はますます高まっている。ここでもう一度、コミュニケーションをどうとらえるか見つめ直すべきではないだろうか。

[徳岡晃一郎,ITmedia]

コミュニケーションには権威や主体はいない

 最近どこでもコミュニケーションの問題が話題になる。顧客とのコミュニケーション、職場のコミュニケーション、世間とのコミュニケーション、投資家とのコミュニケーション。有権者と、お役所と、取引先と、社員と、上司と、家庭内でも、夫婦の、子どもとの…と数え上げたらきりがない。また最近では企業活動のグローバル化に伴い、外国政府や外国の人々とのコミュニケーションも欠かせなくなってきた。

 しかし、おおむねどれもこれもうまくいかずにギクシャクしているのが昨今ではないだろうか? 現在の不況も大きな要因だろう。少ないパイを巡っていろいろな利害を調整しなくてはならない。また、世界的なパラダイムのシフトのなかで、多くの既存の価値観が揺らぎ、みなが新しい秩序や多様化した社会のバランスを模索しているさなかであることもコミュニケーションを複雑にしている。変化の激しさもこの状況に輪をかけている。ある時はこれが正しいと思ったことが一夜にしてひっくり返ると、昨日まで信じてコミュニケーションしていたことが突如蒸発してしまう。民主党とのコミュニケーションのとり方に苦労している霞が関もそうだ。

 このようにわれわれはまったく不安定な状況にいる故に、コミュニケーションが難しいのだが、逆に考えれば、こういう不安定な状況だからこそ、コミュニケーションの重要性が注目されるのではないだろうか。不安定な中で、誰もコミュニケーションをとらなくなれば、お互いがますます分からなくなり、ますますバラバラになっていってしまう。

 そういう意味では、コミュニケーションとは何か、その役割をもう一度考えてみる必要がありそうだ。辞書でコミュニケーションを引いてみると、「互いに意思、感情、思考を伝達しあうこと」と出てくるが、こうした定義は道路のようなものだ。2地点間(相手同士)の間に引かれた道路上を自分の意思・感情・思考というクルマが行き交っていると例えられる。この状況では、クルマの規格や交通ルールがひっきりなしに変わってしまうような社会の変化が起きているとすると、クルマが安全には通行できなくなり、渋滞や事故の元になってしまう。割り込みした、煽ったなどでけんかになるかもしれない。相手同士が自分の都合でコミュニケーションをしようと思っても、伝達しようがなくなってしまう。かといって、コミュニケーションには政府が新しい交通ルールや車両の規格を作るというようなことはできず、権威や主体はいない。

調整し何かを生み出すコミュニケーションへ

 それ故、こういう場合は試行錯誤の中で自分たちのルールを決めるのが普通の知恵だ。道路でも互いに譲ったり、間合いを取って、その場の秩序を作っていくという知恵が働くだろう。コミュニケーションに戻って考えれば、一方的に意思、感情、思考を「伝達」するのがコミュニケーション、ととらえるのではなく、伝達しながらどうやって調整するのか、どういうことを目指していくのか、そんな共存ルールや知識を生み出す「プロセス」として、コミュニケーションをみた方がよいのではないだろうか。

 すなわち、対話や場などにより、互いの思いをぶつけ合って、相互に何をすべきかを見いだしていくプロセスがコミュニケーションだと考えた方が、この困難な時代には生産的なのである。安定した時代には、情報伝達的コミュニケーションが効率的で主流であったが、混迷の時代にはそれでは非生産的であり、むしろわれわれは知識創造的なコミュニケーション手法をもっと身につける必要があるのではないか。

 こういう流れの中で考えると、実はコーチング、ファシリテーションなどの重要性があらためて見えてくるはずだ。単にこれらのスキルだけを勉強して分かった気になりがちだが、実はその奥には「知識創造」という、もっと深い意義が隠されているのである。

 またそれらをさらに発展させたところに、対話や場、物語(ストーリーテリング)など知識創造のためのツールがあり、これらが暗黙知と形式知をコミュニティーで循環させるSECIプロセス(共同化:Socialization、表出化:Externalization、連結化:Combination、内面化:Internalization)を回すことにつながる。

 合宿や活性化のイベント、お祭り、セッションなどのより広い文脈でもコミュニケーション活動が存在する。これまでは一定の社会的規範が定着し、みながそれに染まっていたためにこのような調整能力をわれわれは忘れていたのだろう。調整能力を復活させずにギクシャクしたままでキレてしまい、社会の安定性や生産性、そしてモラールも急降下させてしまった。

 今後はコミュニケーションの役割を見直していかねばならない。常に互いの間合いを調整しながら、よりよい解へ向かってすり合わせ、創造的対話を行っていくことがコミュニケーションなのであって、そういう認識を互いに持つことによって、忍耐も生まれ、夫婦間、家族間の関係などもうまくいくし、社員も活性化するのではないだろうか。元来、日本の製造業の高品質を作りこむ「すり合せ能力」に見るように、日本にはその力がある。製造の現場だけではなく、もっと日本人の創造的コミュニケーションの知を広い世界で生かしていきたい。

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プロフィール

とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。


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