Oracleの対IBM「宣戦布告」広告の背景Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2009年09月14日 09時14分 公開
[松岡功ITmedia]
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なぜ、宣戦布告の相手がIBMだけなのか

 さらに、予想されたことではあるが、SPARC/Solarisシステムの顧客をターゲットに、IBMやHewlett-Packard(HP)がリプレースを促進する動きを活発化させている。

 両社ともLinux搭載サーバを受け皿として、移行に必要な調査やシステム構築コンサルティング、移行後の検証および運用支援などを行うサービスを7月中旬から提供開始した。

 折しも7月14日(米国時間)には、Sunが2009会計年度第4四半期(2009年4〜6月期)業績速報でアナリスト予測を超える赤字になったことを発表(正式な決算発表は米国時間の8月28日に行われた)。IBMやHPはそれを見越したかのように、SPARC/Solarisシステムの顧客切り崩しに動き始めた。

 こうした中でOracleが発信した今回のメッセージは、Sunの顧客の不安を払拭し、IBMやHPの切り崩し攻勢をはねのけるのが狙いであることは明白だ。しかも「本気」を見せるためには、単に事業の継続を示すだけでなく、もっと踏み込んだメッセージが必要だった。投資強化やIBMへの宣戦布告を打ち出したのは、まさしくそのためだ。

 一方、先週の第一報のいくつかの記事では、この広告の中にMySQLのことが一切触れられていないことから、さまざまな憶測が飛び交っているが、これは欧州委員会がとくにデータベース市場の競争状況について精査しようとしていることに配慮したものだろう。ただ、最終的にOracleがMySQLをどうするのかは分からない。

 さらにもう1つ、深読みしたくなるポイントを挙げておきたい。なぜ、宣戦布告の相手がIBMだけなのか、だ。確かにOracleにとってIBMは、データベースをはじめとしたミドルウェア事業での宿敵であり、今回それにハードウェア事業が加わることで、総合ITベンダーとして真っ向からぶつかる形となる。

 しかし、先に紹介した通り、SPARC/Solarisシステムの顧客切り崩しには、IBMと同様、HPも力を入れている。UNIXサーバ事業という観点からいえば、脅威なのはIBMよりもむしろHPだろう。OracleにとってHPは敵ではないのか。

 右手で握手しながら左手で殴り合うのが日常茶飯事となった最近のIT業界では、そうした相関図も描きにくくなってきているが、OracleとHPがビジネスパートナーとして緊密な関係にあるのは周知の事実だ。

 実際に両社は、OracleがSunの買収を発表した後も、さまざまな分野で戦略的な提携を行っている。今後、ハードウェア事業では競合することになるが、ビジネスメリットがある限り、OracleとHPの関係は変わらないだろう。OracleのエリソンCEOの胸の内には、さらなる「大連合」の構想があるのかもしれない。IBMへの宣戦布告は、その伏線のようにも見て取れる。

 大連合といえば、従来からSunとつながりの深い富士通も、今後はOracleとの関係が強まっていくだろう。Oracleと富士通にとって共通する宿敵は、ほかでもないIBMだ。エリソンCEOは今回の宣戦布告によって、Sunとともに富士通へも、これからのIBMとの戦いに向けた闘志を示そうとしたのではないか。

 今回のOracleの広告メッセージには、そんな闘志とともに、ハードウェア事業の強化に向けた決意が込められていた。裏を返せば、それは同社の強い危機感の表れともいえよう。

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プロフィール

まつおか・いさお ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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