コラム
» 2009年09月15日 07時00分 公開

闘うマネジャー:「積算根拠の説明」をめぐる苦渋――発注側と開発側のギャップ

最近の自治体関係者の話を聞くと、「業者から見積もりを取って予算要求すればいい」というやり方に限界が来ていることに気付かされる。

[島村秀世,ITmedia]

何が正しいのかが分からなくなる

 長崎県のシステムが徳島県、和歌山県に導入されていることもあり、この夏、自らの自治体でも安価にシステムを構築できるのではないかと、幾つかの自治体の担当者が長崎県を訪れた。数年前までは、オープンソースによる低廉化施策をはじめとして、システムの機能や地場主体の開発で大丈夫なのかなどが話題の中心であったが、ここ1年は変わってきている。以下のような声が聞こえてくるのだ。

・現在のシステムがそれなりに使えているため、部品を交換しながらリースの延長を繰り返してきたが、もう限界である。

・予算要求をするのに、積算根拠の説明ができなくて困っている。

 この2つの声は、一見、まるで違う悩みのように思えるが、いずれも業者から見積もりを取って予算要求すればいい、というやり方に限界が来ていることに起因する。

 行政は公であるが故に、必要な機能は指定しても、特定の企業に絞り込んで調達を行うことはしない。このため、大まかな機能を企業に説明して、実現するのにいくら掛かるかを見積もってもらい、予算化し、翌年度に入札を行う。例えば、電子決裁なら次のような感じだ。

・役職順に従って電子文書が回覧されること。

・必要に応じ差し戻しなどができること。

・決裁完了後は文書管理ができること。

 依頼された企業としては、求めている機能があいまい過ぎて正確な見積もりなど不可能だとは考えながらも、「取りあえず予算化に必要なので」と、言われているものだから、自社が扱っている商品をベースにあれこれ想定しながら見積もることになる。当然、取りあえずとしてはいても、後で「できるって言ったでしょ。見積もりだってもらってるよ」と言われた時に困らないように多めの額を出している。

 しかし、発注側である行政の担当者は、このような想定など知るよしもない。「取りあえず」としているのだから気にもしていない。こんな状況なので、財政担当課から、「その機能で、その金額は妥当なのか」と問われたら「他県もほぼ同様な金額ですし、大手のA社に見積もってもらったので大丈夫だと思います」としか答えられない。

 「予定価格の積算は元課の仕事でしょ。そんなことでいいのか」と指摘されると、慌てて見積もりの明細を作ってくれなどとA社に頼むのだが、昨今は「具体的かつ詳細な機能提示をしていただかないことには明細など出しようがありません」と突っぱねられる。A社としても、コンプライアンスが強く求められているのだから当然だ。

 困った担当者は、別のB社に見積もりを依頼する。いわゆる相見積もりだが、提出された見積書を見ると、ちょっとした明細が書いてある上にA社の半分の価格となっていたりする。こうしてますます、何が正しいのか、積算根拠の説明ができなくなってくる。

発注側と開発側のギャップを埋めるための方法

 ところで、電子決裁などという難しいシステムではなく、eメールを実現したいとするだけの見積もり依頼だったらどうだろう。必要な機能を次のように指定してみる。

・Windows付属のメーラーにより、eメールを実現すること。

・メールのウイルスチェックを行うこと。

・スパムメールの防止ができること。

・職員と所属のアドレスは、付属のアドレス帳から簡単に取得できるようにすること。

 これだったら、すべての業者が、ほぼ正確に見積もりを出すことができる。では、「Windows付属のメーラー」の部分を、「どの端末からでも利用できるようにWebメール」と変えてみたらどうだろう。Webメールに求められる機能が具体的でないため、またしても、見積もり額はバラバラになってしまう。

 eメールでさえこんな状態なのだ。どう考えても、業者から見積もりを取って予算要求すればいいというやり方には限界がある。

 では、どうすればいいのだろう。まず、発注側と開発側の意識の違いを認識することから始める必要がある。以下を確認願いたい。

・発注側が出す要求は、「どうしたいのか」でしかない。

・開発側が知りたいのは、「何が必要なのか」である。

 単純な言葉の違いではあるが、どうも発注側と開発側には大きなギャップがある。ギャップを埋めないから明細が作れずにいるのだ。ギャップを埋めるには、両者は以下の考え方をまず再認識しなくてはならない。

・「どうなれば良いのか」を発注側と開発側は共有しなければならない。

 長崎県では、詳細な設計書を用意することで、「どうなれば良いのか」を開発側と共有し、ギャップを埋めるようにしている。しかし、これは開発時のギャップ解消策であり、予算策定時の策ではない。筆者としては、2つの方法を用意し、使い分けて対処するつもりだ。

方法1

  • 予算策定年に、システム画面を設計することで、必要とする機能を見える化する。
  • 見える化した機能を、さらに小分けして個々のサイズを小さくする。
  • 過去の開発実績をベースに費用を見積もる。

方法2

  • 全部長が参加する情報化推進本部にて今後5年程度の計画と費用を提示し、方向性について合意を得る。
  • 実予算に関しては、主要な部分のみシステム画面を設計した上で見積もり、他の部分は過去の実績から想定し見積もる。

 ここまで読んで、「そんなの面倒だ。時間がかかり過ぎる!」と思った自治体職員もおられるだろう。では、あなたの自治体では、どうすればいいと思いますか?

 土木なら「土木工事標準積算基準書」の歩掛を根拠にすればいいが、システム開発にそんな基準はない。公務員には説明責任があるんです。さあ、あなたならどうします? まさか、5〜6社から見積もりをとって最も安かったところ、なんて言いませんよね。そんなことをしたら、使えないシステムが増えるだけで、無駄遣いを指摘されますよ。

 ところで、補正予算に「霞が関クラウドの推進 200億円」とあるけど、積算根拠の説明ってどうやったんでしょうね(笑)

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プロフィール

しまむら・ひでよ 1963年3月生まれ。長崎県総務部理事(情報政策担当)。大手建設会社、民間シンクタンクSE職を経て2001年より現職。県CIOとして「県庁IT調達コストの低減」「地元SI企業の活性化」「県職員のITスキル向上」を知事から命じられ、日々奮闘中。オープンソースを活用した電子決裁システムなどを開発。これを無償公開し、他県からの引き合いも増えている。「やって見せて、納得させる」をマネジメントの基本と考える。


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