あなたの言葉はなぜ他人の心に響かないのか?オープンソースソフトウェアの育て方(6/7 ページ)

» 2009年09月29日 08時00分 公開
[Karl Fogel, ]

何が失礼に当たるのか

 オープンソース文化の特性の1つに、何が失礼で何が失礼でないかということに関する独特の基準があります。以下で説明する内容は、ソフトウェア開発やソフトウェア全般に特有のものではありません(数学や自然科学、工学にかかわっている人たちならおなじみのものでしょう)。しかし、フリーソフトウェアの世界は人材の出入りが頻繁に行われ、新しい人たちが常に流入してきます。こういう考え方になじみのない人たちが流入してくることも大いにあり得るでしょう。

 まずは、失礼ではないことについて説明します。

 技術的な批評は、たとえそれが直接的で歯に衣着せぬものであっても失礼には当たりません。実際のところ、逆にそれはほめ言葉とも取れるかもしれません。批評するということは、それが時間をかけて真剣に議論する価値があるものだと暗に認めているわけです。そして、それがうまく成長すると、批判よりも賞賛の方が多くなってくるわけです(もちろん、その批評が個人攻撃に成り下がったり、そのほかの明らかに失礼な内容になってしまうこともあり得ます)。

 ぶっきらぼうで素っ気ない質問、例えば先ほど引用したShaneのメールのような質問は失礼には当たりません。状況によっては少し非情に見えたり馬鹿にしているように感じられるような質問でも、それは真剣になされたものであり、必要な情報をできるだけ手早く引き出したいという以外に隠された意図はありません。

 サポートセンターの有名な質問である「コンピュータのコンセントはちゃんとささっていますか?」というのは典型的な例です。サポート係の人は、ただ単にコンセントがささっているかどうかを知りたいだけです。仕事を始めたばかりのころはこの質問の前にいちいち丁寧な前置き(“すみませんが、幾つかの可能性を排除するために少々質問させていただいてよろしいでしょうか? 中には基本的すぎるものもありますが、我慢してくださいね……”)をしていたのでしょうが、それにも疲れてきたのでしょう。今や、彼女は単刀直入に「ささっているのかいないのか」を聞くだけになっています。

 フリーソフトウェアのメーリングリストでも、同様の質問が散々行われています。これは決して相手を侮辱しているのではありません。最も明らかな(そして恐らく最もありがちな)可能性をできるだけ早い段階で排除したいだけなのです。それをよく分かっている人は、文句も言わずにその質問に従い、よりよい結果を得ることになります。しかし、もし文句を言う人がいてもそれをけなしてはいけません。これは、単なる文化の相違であり、どちらが悪いとかいうものではありません。あなたの質問(あるいは批評)には隠れた意味はまったくないことを説明してあげましょう。単に情報を効率的に取得したかった(あるいは伝えたかった)だけであり、それ以上でも以下でもないといえばいいのです。

 では、何が失礼に当たるのでしょう?

 先ほど、技術的な批評をすることは一種のほめ言葉に当たるといいました。その観点から言うと、真剣な批評をしないということは一種の侮辱になるかもしれません。これは、誰かの作業(何らかの提案やコードの変更、バグの報告など)を単に無視することを言っているのではありません。後できちんと返事をすると約束したのでない限り、何も反応しなくてもいっこうに問題はありません。周りの人も、単に何か言うだけの時間がなかったんだとみなしてくれるでしょう。しかし、もし何か反応を返すのなら、決して手抜きをしてはいけません。時間をかけてしっかり分析し、必要なら適切なサンプルを用意し、過去ログのアーカイブから関連する議論を探すといった作業を欠かさないようにしましょう。

 そんなことをしている時間はないが、でも一言だけいっておきたいという場合は、メッセージの中に釈明をいれておきましょう(“これ、たしかバグとして報告されていたはずなんだけど、今ちょっと探しているヒマがないんだ。ごめんね”といった具合に)。大事なのは、文化的な基準があることを認識することです。その基準は守ること。そしてもし守れない事情があるときは、守れないことを認識していると知らせること。いずれにせよ、基準が大切です。この基準を守れなかった上にその理由も説明していないとなると、その話題(そして関係者たち)に対して十分に時間をかけるだけの価値がないと考えているように思われてしまいます。怠け者であると思われるよりも、単に時間がないだけなんだということを率直に説明しておく方がいいでしょう。

 もちろんこれ以外にも失礼に当たることは多々あるでしょう。しかしその多くはフリーソフトウェア開発に限ったものではありません。一般常識の範囲で判断できるはずです。もしまだご覧になっていないのなら、章2.さあ始めましょう炎上を阻止する項も参照してください。

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