クラウド普及のカギアナリストの視点(3/4 ページ)

» 2009年10月08日 08時00分 公開
[岩上由高(ノークリサーチ),ITmedia]

PaaSの普及を左右する要素

フレームワークへの対応

 既に述べたように、業務アプリケーションベンダーがPaaSを活用するには、ビジネス面や技術面において障壁がある。そのため、システムインテグレーターによるSaaSやPaaSの受託開発案件の増加が、PaaS市場をけん引していくとみられる。だが、システムインテグレーターにおいても、開発言語やフレームワークの制約は、PaaS活用の足かせになる。市場規模においてPaaSの占める比率がSaaSよりも低いのは、こうした背景も関係している。

 開発言語という観点で見れば、MicrosoftのクラウドOS「Windows Azure」では、VB.NETやC#などの言語を利用できる。Googleが提供するPaaS型のアプリケーション開発基盤「Google App Engine」も、PythonおよびJavaに対応している。

 PaaSの市場規模が拡大するために重要な点は、広く活用されているフレームワークへの対応だ。受託開発中心のシステムインテグレーターにおいても、通常の開発にはWebアプリケーションフレームワーク「Struts」に代表される何らかのフレームワークを使っている。既に広く普及しているフレームワークが、PaaS上で正常に動作するようになれば、システムインテグレーターのPaaS活用が大きく広がる。「Slim3 for GAE/J」やVMWareによるSpringSourceの買収などは、「既存フレームワークに対応したPaaS」の先駆けともいえる。今後、PaaSが普及するには、フレームワークがいかにPaaSに対応していくかという点にある。

ライセンスへの対応

 もう1つのポイントはライセンスである。企業の情報システムは、時間とともに規模や複雑さが増していく。システムの試験導入レベルでは初期コストを抑えるためにクラウドを活用し、複数の部署に展開していく。その後機能を改善する段階では、自社内にシステムを引き戻す。グループ企業も含めてシステムの活用を全社に展開する場合は、スケールメリットを考えてクラウド基盤にシステムを移行する――といったケースも現実には少なくないだろう。

 そうした場合、技術的観点のポータビリティ(移行性)はもちろんのこと、「ライセンス面でのポータビリティ」も考えておく必要がある。同じミドルウェアを利用しているのに自社内運用とクラウド利用でシステムのライセンス体系が異なると、システムのライフサイクルに応じて2つのシステムを柔軟に切り替えることができなくなる。この点において、Oracleなどのミドルウェアベンダーが既に取り組みを開始している。クラウド活用に対するシステムインテグレーターの意識も、今後は適切なタイミングで高まっていくと予測される。


 PaaSの区分では課題が山積しているものの、その多くは時間とともに解消されていくだろう。市場規模が大きく伸びるのは2011年以降の予想だが、2012年の段階ではSaaS区分と比べて全体に占める割合は小さい。PaaSの本格的な普及にはまだ時間がかかりそうだ。

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